ヒトをはじめとした哺乳類の月経周期は,視床下部-下垂体-卵巣軸(HPO axis)により調節されている。視床下部で合成・分泌されるゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)は下垂体からの卵胞刺激ホルモン(FSH),黄体形成ホルモン(LH)分泌を制御し,ゴナドトロピンであるFSHとLHは卵巣に作用し,卵胞発育や排卵を促す。卵巣では発育中の卵胞や排卵後の黄体から,エストロゲンやプロゲステロンが分泌される。さらに,これら卵巣から分泌されたホルモン(主にエストロゲン)のフィードバック作用により視床下部からのGnRH分泌が制御される。したがって,このループのいずれかが障害されると,排卵障害や月経不順が生じることとなる。
一方で,視床下部GnRHニューロンにエストロゲンレセプター(ER)が発現していないことから,卵巣から視床下部へのフィードバック機構の詳細は不明であった。近年,視床下部においてGnRH分泌をさらに上位から制御するキスペプチンという神経ペプチドが同定され,その詳細が明らかとなってきた。キスペプチンニューロンはエストロゲンレセプターα(ERα)を発現し,卵巣からのフィードバックを中継するとされる1)。
また,キスペプチンやそのレセプター遺伝子に変異を認める家系では,低ゴナドトロピン性性腺機能低下症を呈する。キスペプチンの生理機能の解析は,HPO axisのさらなる解明をもたらすと考えられ,中枢をターゲットとした新規治療開発につながる可能性が期待される。
【文献】
1) Pinilla L, et al:Physiol Rev. 2012;92(3):1235-316.
【解説】
大須賀智子 名古屋大学産婦人科