2009年からスタートした産科医療補償制度について、日本産婦人科医会(木下勝之会長)は9日の記者懇談会で、これまでの実績と今後の課題について説明した。
同制度は分娩に関連して発症した脳性麻痺児と家族に総額3000万円の補償を行うとともに、脳性麻痺の原因を分析し、再発防止策を検討する制度。
原因分析は総勢19名で構成される委員会がカルテ等から行い、報告書を家族に送付する。分娩の担当医からのヒアリングは基本的に行っていない。
医会では、報告書開示後の家族に分娩機関への気持ちの変化を調査した。その結果、「悪いほうに変化」が36%に上った(図1)。説明した岡井崇副会長は、「報告書開示が分娩機関への信頼回復につながっていない」と問題視し、要因として、①報告書送付後、分娩機関と家族で話し合いが行われていない、②分娩機関の最初の説明が不正確または不足、③医療現場の実情が家族に理解されていない─と分析。「この結果は医療の透明化を進める過程の試練」と述べ、家族と話し合う場をつくる必要性を指摘した。
産婦人科の訴訟については、産科医が業務上過失致死罪で逮捕(後に無罪判決)された2006年の大野病院事件以降、減少傾向であることを紹介(図2)。報告書送付によって訴訟増加を懸念する意見があるものの、実際に報告書送付後に損害賠償請求が行われた事例は、2.5%にとどまるとした(表1)。
9日の懇談会では、脳性麻痺の原因分析の結果も示した。単一の原因では常位胎盤早期剥離が最も多く、全体の25%。そのほか、臍帯因子、感染、胎児母体間輸血症候群が上位を占める一方で、原因不明も全体の26%に上った。岡井氏は「常位胎盤早期剥離がこれほど多いということは初めて分かった」と原因分析の成果を評価し、病態解明、早期診断法の開発や、脳性麻痺の原因分析と防止のための研究を進めることが重要だと強調した。