本研究の目的は,医療機関における医療従事者を対象とした産業保健活動の実態を明らかにすることであった。公益財団法人日本医療機能評価機構の病院機能評価の認定病院のうち,関東地方の医療機関すべて(n=553)を対象とした。法律で規定されている産業医や衛生管理者の選任率は高かった。一方,法律で規定されているにもかかわらず,産業医による毎月1回の職場巡視実施率は42%にすぎなかった。産業保健上の課題として,最も優先度が高いと評価されたのは,「職業感染対策」であった。医療機関で働く職員の安全と健康を守るために,よりいっそうの産業保健活動の推進が求められる。
医療従事者は人の命を扱うため,小さな過誤でも重大な結果をもたらす可能性がある。しかも,医療従事者は一般的に使命感が強く,自己犠牲を伴った働き方をする傾向もあり,さらには労働者として必要な休息をとったり,休暇を取得することにも罪悪感を持つ傾向がある1)。
近年,医師の長時間にわたる過重労働の問題がクローズアップされるようになってきた。2011年には,日本学術会議基礎医学委員会・健康・生活科学委員会合同パブリックヘルス科学分科会によって,「病院勤務医師の長時間過重労働の改善に向けて」と題する提言2)が公表された。この提言の中においては,「まずは病院が,勤務医に対して,労働基準法,労働安全衛生法を遵守することを,管理者の責任として徹底すべきである」と示されている。
医療従事者の健康や安全は,自己保健義務を持つ医療従事者個人としても様々な取り組みが求められるが,医療機関においては安全配慮義務を持つ組織としての取り組みが求められる。近年,医療機関において様々な取り組みが行われるようになったが,実態については明らかにされていない。本研究の目的は,関東地方における病院機能評価の認定病院を対象として医療従事者の産業保健活動の現状と優先度の高い課題を明らかにすることである。
調査の対象として公益財団法人日本医療機能評価機構の病院機能評価の認定病院で関東地方の医療機関すべて(n=553)を選択した。本調査は2013年1月9日から2月5日に実施した。調査票には次項に示す項目を含めた。なお,調査票は無記名とした。
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