多くの医師が考えているよりもはるかに多彩な症状をきたす亜鉛欠乏症が存在する
亜鉛欠乏症は「欠乏症」であることから,その多くは安価で,簡単かつ安全な論理的亜鉛補充療法によって軽快・治癒することができる
集団の基準値は個の正常値ではないため,亜鉛欠乏症を血清亜鉛値の絶対値のみで確定診断することはできない
臨床症状と血清亜鉛値から亜鉛欠乏症の可能性を推定し,臨床経過と検査値の推移を追跡する論理的亜鉛補充療法で総合診断することで,治療と予防も可能となる
亜鉛欠乏症には様々な原因が考えられるが,臨床的に主要なものは,食糧と食物,そして薬剤(特に多剤服用)の問題の3点であると考える
2002年,多彩な症状をきたす亜鉛欠乏症の存在に気づき,その疑いがある患者をエクセルで登録管理したところ,現在までに1000人を超えた。亜鉛欠乏症や亜鉛生物学についてはまだわからないことが多いが,今日までの経験をふまえて臨床・基礎の知見の一部を記述する。より詳しくは,亜鉛欠乏症の第一,第二ホームページ1)などをご参照頂きたい。
亜鉛欠乏症の診断と治療は,臨床症状より疑い,血清亜鉛値などを測定して亜鉛欠乏症である可能性を考慮し,可能性が高ければ亜鉛補充療法を試行し,血清亜鉛値の推移と臨床症状の変化などを併せて総合的に診断する。その後,治療継続の可否や亜鉛不足の原因の推定,維持療法や予防法などについて(特に近年の,キレート作用を有する薬剤をはじめとした多剤服用症例への対応について)全体的な検討をする。
2002年から今日までに筆者らが経験した亜鉛欠乏症の症状・疾患を表1に示す。紙数の関係から,日常でしばしば診る①味覚障害,②食欲不振,③舌痛症および舌・口腔咽頭症状,④褥瘡,⑤皮膚症状・皮膚疾患,を中心に亜鉛欠乏症の診断と治療について書くこととする。これらの症状・疾患は単一で発症することもあるが,複数の症状・疾患が併発することも多い。そのため,新たな症状・疾患が亜鉛欠乏によるものと芋づる式に判明することもしばしばある。そこで問診では,口角炎やアフタ性口内炎などの既往,その他様々な症状がどのように発症してきたか,潜在的な症状などについても慎重に聞き出し,その他の臨床症状・状態も併せて疑う。微量元素である亜鉛の生体内機能(表2)から考えて,まだまだ多くの未知・未確定の症状や疾患があると考えている。
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