完全型アンドロゲン不応症は,アンドロゲン受容体変異によりアンドロゲン作用が欠如することによって生じる性分化疾患である。アンドロゲン受容体はX染色体上にあり,変異遺伝子を持つ母親(保因者)からの遺伝もしくは,新たにアンドロゲン受容体遺伝子に生じた(de novo)変異により46,XY個体に発症する。
外性器は女性型で,陰毛と腋毛はほぼ欠如する。腟は4~7cmほどの盲端に終わり,腟の頭側と子宮・卵管は欠如する。性腺は,鼠径管もしくは腹腔内に存在する。血中テストステロン値は男性の基準値内もしくは高値で,黄体形成ホルモンは高値,卵胞刺激ホルモンは基準値を示す。エストラジオールは,男性の基準値もしくはやや高値で,女性の基準値より低い。原発性無月経を主訴として受診する例が多い。ジェンダーは女性である。
内性器および性腺の評価には,造影MRI検査や超音波検査(経直腸・経腹・経腟)が有用である。両側の鼠径ヘルニアの手術既往のある症例では,性腺が切除されていることがある。
完全型アンドロゲン不応症は臨床所見から診断を推定し,遺伝子診断により診断を確定する。遺伝子診断の前後に行う遺伝子カウンセリングが大切である。
Y染色体(TSPY遺伝子)を有する患者の腹腔内精巣では胚細胞腫瘍の発生率が高まることから,性腺を摘除しその後にホルモン補充療法を行うことが推奨されてきた。しかし,胚細胞腫瘍の発生率は従来考えられていたより低く,若年者での発症は稀であることが明らかとなってきた。中でも完全型アンドロゲン不応症では,胚細胞腫瘍の発生率は成人期においても低く,発生した場合でも腫瘍の悪性度が高くないことなどから,予防的性腺摘出の生命予後の改善効果は確認されていない。そこで,最近では思春期までは性腺を温存し,その後性腺摘出術を受けるかどうか患者自身の判断にゆだね,成人後においても性腺の摘出を受けないことも選択肢のひとつとする傾向にある。
思春期まで性腺が温存された場合には,自然に乳腺発育が始まるので,思春期の導入のためのタイトレーションによるエストロゲン治療が不要となり,性腺摘出後に成人量のエストロゲン投与を開始できる。また,性腺の温存を継続した場合には,性腺の喪失に伴う精神的・肉体的な不調の発生リスクを回避できるというメリットもある。
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