卵巣癌は予後不良な疾患のひとつであり,新規治療戦略の開発とともに,発癌や進展機序の解明が強く望まれる。1889年にPagetらは,「がん細胞(種)は適切な環境(土壌)でのみ転移巣を形成する」という,がん微小環境の重要性を提唱した。
筆者らは,がん微小環境の中でも特に,マクロファージに注目して研究を進めてきた。すなわち,他癌腫と同様に,卵巣癌においても,がん細胞が分泌するサイトカインによって,マクロファージは好腫瘍性のM2マクロファージへ分化する。M2マクロファージはIL-6やIL-10などのサイトカインを分泌することで,がん細胞の増殖をさらに促すことを報告1)している。また,他施設からは,卵巣癌の腫瘍内へのM2マクロファージの浸潤が多いほど予後不良であるとの報告2)もある。
当施設において,初回治療として手術療法を行い,原発巣の生検あるいは片側卵巣摘出に終わった症例の中で,化学療法の後に根治術を行い,2回の手術検体を比較できた症例が11例あった。そのうち,死亡例8例はいずれも,初回より2度目の手術検体においてM2マクロファージが増加していたが,生存例3例はすべてM2マクロファージが減少していた。検討数がいまだ少なく議論の余地はあるが,卵巣癌の根治にM2マクロファージの制御が重要であることを示唆する結果である。今後さらに,がん微小環境を標的とした治療が注目される。
【文献】
1) Takaishi K, et al:Cancer Sci. 2010;101(10): 2128-36.
2) Lan C, et al:Technol Cancer Res Treat. 2013;12 (3):259-67.
【解説】
坪木純子,*片渕秀隆 熊本大学産科婦人科 *教授