よく知られているように、スタチンは糖代謝を若干だが悪化させる。にもかかわらずスタチンにより心血管系イベントは抑制される。しかし細小血管症に悪影響はないだろうか。
この点に関し興味深い報告が5月29日、Canadian Medical Association Journal誌に掲載された。少なくとも2型糖尿病例では、スタチンは細小血管症を増悪させず、逆に改善するようだ。中国・国立腎疾患臨床研究センターのShiyu Zhou氏らによる論文を紹介したい。
同氏らが解析対象としたのは、全国データベースに登録されていた40歳以上の、入院を要した2型糖尿病1万9858例である(糖尿病が原因とは限らず)。過去1年間にスタチン服用歴のある例、また慢性腎臓病の診断歴がある例は除外されている。
年齢中央値は62.2歳、55.5%が男性だった。推算糸球体濾過率(eGFR)の中央値は93mL/分/1.73m2、レニン・アンジオテンシン系抑制薬服用例は27%(のみ)である。
これらを対象にスタチン開始の有無で2群に分け、「糖尿病性腎臓病(diabetic kidney disease:DKD)」発症リスクを比較した。内訳は「90日間以上続くeGFR低下、あるいはアルブミン尿増加」である。
スタチン「開始」群は7277例(他の脂質低下薬併用例は除外)、「非開始」群は1万2586例である。両群の背景因子の違いは「傾向スコアを用いたoverlap weighting」という手法で調節した。
その結果、中央値1.6年間の追跡期間中、DKD発症率はスタチン「開始」群で5.9%、「非開始」群は6.9%。「開始」群における補正後ハザード比(HR)は0.72(95%信頼区間[CI]:0.62-0.83)の有意低値だった。
この「開始」群におけるDKD発症リスク抑制は、脂質異常症合併(8019例)の有無を問わず認められた。
なお本検討と異なり対象を2型糖尿病に限定しない観察研究では(合併率10%強)、スタチン服用による慢性腎臓病診断リスクの有意上昇も報告されている[Acharya T, et al. 2016]。
ちなみに最新のメタ解析によれば、スタチン開始に伴うHbA1c上昇幅は服用前「≧6.5%」ならば0.21%(95%CI:0.21-0.31)のみだが、「<6.5%」であれば1.33%(1.31-1.35)である[Alvarez-Jimenez L, et al. 2023]。
本試験は中国国家機関からの資金提供を受けて実施された。