糖尿病治療は,この20年間で最も進歩した分野の1つであり,今後も新たな治療の選択肢が次々に加わってくる予定です。糖尿病治療に関わる医療者として選択の幅が広がることは大いに歓迎すべきことですが,その反面,どのような病態の糖尿病患者に,どのような治療を選択すべきか,ガイドラインに目を通すのみでは迷う場面も増えてくるでしょう。そのようなときに経験豊富な専門医の意見を聞いたり,対処法や考え方を参考にすることができれば,臨床の現場で大きなサポートとなるはずです。
本書の原点は1995 年発行の『専門医を目指すケース・メソッド・アプローチ 糖尿病』にあり,その発刊コンセプトは,「紙上の設問を含めて読み進める中で,主治医・チームの一員として症例の経過を追いながら,診断・治療を進めていき,臨床の現場で要求される具体的な最新の知識や臨床力を身につけるための問題集とする」ということでした。発刊から約20年間, 常に最新の情報を取り入れながらリニューアルを行って参りましたが,今回はインクレチン関連薬の登場や“熊本宣言(2013)”の発表など, 今後の糖尿病診療に携わる上で避けて通ることのできない重要な事項をふまえ,内容を一新することといたしました。
本書の全23症例には最前線の糖尿病診療におけるエッセンスが含まれるよう配慮されており,巻末の一般問題は知識を整理し,理解を深めるために役立つことと思います。本書の主な読者対象は糖尿病専門医を目指す研修医ですが, 糖尿病の知識をしっかり身につけたい他分野の先生方にもご満足頂ける内容だと思います。
一方,糖尿病の実地診療では患者個々の状況に応じたフレキシブルな対応が必要となるケースもしばしばあり,“正解”が本文以外にも存在する可能性は否定できません。本書では,この点も勘案して作成したつもりですが,もし何かお気づきの点があれば是非ご指摘を頂ければと思います。次回改訂の参考とさせて頂きます。
本書がすべての読者の学習や実地診療の一助になれば幸いです。
小田原雅人