黄体機能不全とは,黄体からのエストロゲンとプロゲステロンの分泌不全により,子宮内膜の分泌期変化,脱落膜化が正常に起こらないもの,と定義される。最近では,独立した疾患単位としての黄体機能不全の存在には否定的な見解が示されており,背景因子として排卵障害や高プロラクチン血症が存在することが多い。現在治療の対象となる黄体機能不全は主に生殖補助医療(assisted reproductive technology:ART)で,人為的にもたらされるものである。
ARTにおいて調節卵巣刺激を行うと,過剰のエストロゲンによるフィードバックで下垂体からのゴナドトロピン分泌が低下し,特に内因性LHサージ抑制の目的でゴナドトロピン放出ホルモン(gonadotropin releasing hormone:GnRH)アゴニストやアンタゴニストを併用するとゴナドトロピン分泌は著明に低下し,結果として黄体機能が低下する。また,ホルモン補充周期での凍結融解胚移植では,内因性プロゲステロンの産生は起こらないので,プロゲステロン補充は必須となる。
従来,黄体機能不全の診断基準として,①基礎体温高温相10日未満,②黄体中期のプロゲステロン濃度10ng/mL以下,③子宮内膜日付診のずれ,が挙げられていた。しかし,実際の臨床現場で子宮内膜日付診を行うには,侵襲の割に得られる情報が少なく,上記基準による黄体機能不全の診断的意義は疑問視されている。
臨床的に黄体機能不全の所見を呈するのは,①排卵障害,高プロラクチン血症,甲状腺機能異常などの背景疾患がある場合,②体外受精・胚移植周期では調節卵巣刺激(特にGnRHアゴニスト,アンタゴニスト併用下)による黄体機能低下,③ホルモン補充周期での凍結融解胚移植,などであり,それぞれの場合に応じて治療法を組み立てる。
①排卵障害,高プロラクチン血症,甲状腺機能異常などの背景疾患がある場合には,それぞれの病態に対する治療を行う。黄体補充の目的でプロゲスチン製剤の経口投与や注射用プロゲステロン製剤の筋注,黄体賦活の目的でヒト絨毛性ゴナドトロピン(human chorionic gonadotropin:hCG)の筋注を行うことがあるが,治療効果は疑問視されている。
②背景に排卵障害がある場合は,クロミフェン,ゴナドトロピンによる排卵誘発を行う。
③体外受精・胚移植(新鮮胚移植)周期での治療は,プロゲスチン製剤の経口投与,注射用プロゲステロン製剤の筋注,プロゲステロン経腟製剤の投与を行う。エストロゲン貼付薬,エストラジオール,プレマリンなどの経口エストロゲン製剤を適宜併用する。
④ホルモン補充周期での凍結融解胚移植における治療は,注射用プロゲステロン製剤の筋注,プロゲステロン経腟製剤の投与を行うが,最近では経腟製剤の投与が主流である。エストロゲン製剤(エストロゲン貼付薬など)を併用する。
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