消化管に発生する神経内分泌腫瘍(neuroendocrine neoplasm:NEN)は,以前はカルチノイドと呼ばれてきたが,2010年のWHO分類によりカルチノイドという用語は,カルチノイド徴候のみに用いられるようになった。わが国の最新の消化管NENの全国疫学調査が2010年に施行され,年間受療者数は8088人と推定され,2005年の約1.8倍に増加していた。人口10万人当たりの有病者数は6.42人,新規発症数は年間で3.51人であり,前腸由来(食道,胃・十二指腸)が26.1%,中腸由来(空腸,回腸,虫垂)が3.6%,後腸由来(大腸,結腸)が70.3%で,欧米に比べ中腸由来の頻度は少ない。
病理診断が重要であり,2019年に改訂されたWHO分類では,NENはKi-67指数により高分化型のNET(neuroendocrine tumor)と低分化型のNEC(neuroendocrine carcinoma)に大別され,それぞれ治療戦略が異なる。症候性の消化管NETでは,主にセロトニンなどを分泌するため潮紅,下痢などのカルチノイド徴候を呈する。消化管NETでのカルチノイド徴候の合併は3.2%であり,欧米に比して低頻度である。多くのNETにはソマトスタチン受容体subtype 2が発現しており,それを利用したソマトスタチン受容体シンチグラフィーがNETの局在診断,遠隔転移の検索,治療効果判定に有用である。
内視鏡的切除または外科的切除をめざすのが標準であるが,切除不能例では腫瘍増殖を抑制し生命予後の改善と,臨床症状改善を目的とした治療が重要である。特に,消化管NETに対する治療法を選択する際には,組織学的グレード,肝転移の程度(腫瘍量),増殖の程度(Ki-67指数),内分泌症状の有無,患者の全身状態,などからみた総合的な判断が必要である。
消化管NENに対する薬物療法は,NETとNECで異なる。肝転移に対して,ラジオ波焼灼術や肝動脈化学塞栓術なども選択される。再発予防の補助化学療法は,NETに対して確立していない。ホルモン症状を有する機能性NETに対しては,症状をコントロールする目的でソマトスタチンアナログとして,オクトレオチドやランレオチドが用いられる。腫瘍制御を目的とした場合には,ソマトスタチンアナログ,分子標的治療薬,細胞障害性抗癌剤が用いられる。
また,NECに対しては,切除可能であれば切除が行われるが,その意義は明らかになっていない。また,切除が行われた場合は,術後の再発予防の目的にて,補助化学療法が検討される。NECにおいて,肝転移に対する切除は推奨されていない。切除不能例に対してはプラチナベースの化学療法として,エトポシド+シスプラチン(EP),イリノテカン+シスプラチン(IP),エトポシド+カルボプラチンなどが挙げられる。これらの治療に抵抗性の場合に有効な薬物療法は確立していない。
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