卵巣腫瘍は従来,組織発生的に上皮性腫瘍,性索間質性腫瘍,胚細胞腫瘍に大別されるが,近年,卵巣以外にも発生母地が存在する可能性が示され,WHO 2014分類において卵巣,卵管,腹膜の腫瘍は,臨床病理学的に1つにまとめて取り扱われた。わが国でも,新たな臨床的取り扱いに基づいた分類が「卵巣腫瘍・卵管癌・腹膜癌取扱い規約 病理編」で示された1)。卵巣腫瘍の組織型は,①上皮性腫瘍,②間葉系腫瘍,③混合型上皮性間葉系腫瘍,④性索間質性腫瘍,⑤胚細胞腫瘍,⑥胚細胞・性索間質性腫瘍,⑦その他,の7項目に大別され,良悪性に関して,①良性腫瘍,②境界悪性腫瘍/低悪性度腫瘍/悪性度不明の腫瘍,③悪性腫瘍,に分類されている。卵巣腫瘍の約10%は悪性腫瘍である。卵巣悪性腫瘍の約90%は上皮性(卵巣癌)であり,うち約15%は遺伝性乳癌卵巣癌を含む遺伝性である。進行期分類は,手術進行期分類としてFIGO 2014が,病理学的TNM分類としてUICC第8版が用いられる。卵巣癌は約半数がⅢ・Ⅳ期で発見され,女性性器悪性腫瘍の中では,最も死亡数が多い。
卵巣腫瘍は特徴的な症状に乏しく無症状であることが多いため,超音波断層法などで偶発的に発見されることが少なくない。初発症状として,腹部腫瘤や腹部膨満感,これに伴う周辺臓器への圧迫症状,月経異常や不正性器出血などを呈するほか,腫瘍の茎捻転・破裂による急性腹症をきたすことがある。現在までにスクリーニングの有用性は確立されていない。
卵巣腫瘍が疑われた場合,腹部の触診と内診で腫瘍の大きさ,硬度,表面の性状や可動性を評価する。超音波断層法で悪性を疑わせる所見は,充実性構造,壁から突出する乳頭状構造,また充実成分と囊胞成分の混在などがある。生理的範囲を逸脱した腹水貯留や,ダグラス窩・膀胱子宮窩の播種結節も観察する。卵巣腫瘍に対する骨盤内病変の評価にはMRI検査が,また腹腔内の播種やリンパ節転移・遠隔転移の評価にはCT検査が用いられる。特にMRI検査における早期造影効果や拡散強調画像における拡散低下(高信号),ADCマップでの低信号は良悪性の鑑別に有用である。腫瘍マーカーとしてCA125,CA19-9,CEAなどが測定されることが多いが,月経や子宮内膜症などによる偽陽性例もあるため,他の検査と併せて総合的に判断する。
長径が6cm以下の卵巣良性腫瘍の場合は,経過観察可能である(卵巣良性腫瘍は他稿参照)。境界悪性腫瘍や悪性腫瘍が疑われる場合は,術中迅速病理診断の施行が可能な高次医療機関での治療が望ましい。最終的な診断は術後の病理組織学的検査による。
卵巣癌の治療は,手術療法と薬物療法を基本とした集学的治療であり,進行期,組織型,組織学的異型度など予後を左右する因子と,年齢,合併症,挙児希望など臨床的因子を総合的に判断して行われる2)。一次的腫瘍減量手術とそれに続く初回化学療法が基本となるが,広汎な播種病巣や転移巣により完全摘出が困難と想定される症例,全身状態や合併症などにより一次的腫瘍減量手術が行えない症例に対して,術前化学療法施行後のインターバル腫瘍減量手術は選択肢となる。
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