上皮性卵巣癌の発生母地は,卵巣の表層上皮とされていた。しかしながら,近年の分子病理学的な知見の蓄積により,組織型により多彩であることが明らかとなってきている。最も頻度の高い漿液性癌の発生母地は,手術標本の詳細な検討から初期上皮内病変が高頻度に観察される卵管上皮由来の可能性が強くなった(文献1)。したがって,卵巣癌の予防手術として卵管切除の重要性が強調されるようになった。
わが国で比較的高頻度に認められる明細胞癌,類内膜癌の発生母地については,病理学的に移行病変がみられること,分子生物学的に類似した遺伝子変異がみられることなどから(文献2),それらの母地として子宮内膜症組織が注目されている。したがって,卵巣内膜症性囊胞を定期的に経過観察することにより,これらは早期発見が可能と考えられる。
また,10~15%を占める粘液性癌の半数以上は,消化器などの他臓器癌の転移であることが明らかとなった。特に両側性のもの,サイズの小さいものでは転移性の可能性が高く(文献3),治療前の詳細な検索が必要である。
卵巣癌の発生は多彩であり,個別の対応が必要であろう。
1) Przybycin CG, et al:Am J Surg Pathol. 2010;34 (10):1407-16.
2) Munksgaard PS, et al:Gynecol Oncol. 2012;124 (1):164-9.
3) Yemelyanova AV, et al:Am J Surg Pathol. 2008; 32(1):128-38.