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不育症に対する抗凝固療法 【APSの診断基準を満たす場合に抗凝固療法が適応に】

No.4818 (2016年08月27日発行) P.55

桑原慶充 (日本医科大学産婦人科学准教授)

河村和弘 (聖マリアンナ医科大学生殖医療センターセンター長)

登録日: 2016-08-27

最終更新日: 2016-11-04

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不育症の治療法として,ヘパリン療法を行うべき病状,疾患の診断とそのために現在有用な検査に関して,保険適用の有無を含め,日本医科大学・桑原慶充先生にご教示を頂きたく存じます。

【質問者】

河村和弘 聖マリアンナ医科大学生殖医療センター センター長


【回答】

不育症の原因は,遺伝学的異常,子宮奇形,内分泌学的異常,抗リン脂質抗体症候群(anti-phospholipid antibody syndrome:APS),凝固因子異常,同種免疫異常など様々ですが,抗凝固療法の適応となるのは,APSの診断基準を満たす場合やプロテインS欠乏症,プロテインC欠乏症,先天性アンチトロンビン欠損症など血栓性素因が確認された場合です。APSの診断基準には含まれていない自費検査項目である抗フォスファチジルエタノラミン抗体が陽性の場合も,自由診療による抗凝固療法が考慮されます。

その他,①5回以上繰り返す原因不明の流産など,臨床的にはAPSの診断基準を満たすものの,血清学的検査では異常が検出されない場合や,②原因不明の流産回数が2回で臨床的にはAPSの診断基準を満たしていないものの,スクリーニング検査にて抗カルジオリピン抗体の抗体価が著しく高い場合などにおいては,医師の判断で自由診療による抗凝固療法の適応とする場合があります。

不育症の患者が,流産を繰り返しているうちに年齢を重ね,妊娠しにくくなってしまうケースにしばしば遭遇します。このような場合,タイミング法,人工授精,体外受精などの治療に合わせて,抗凝固療法を導入する必要があります。通常は,排卵確認後(体外受精では胚移植後)に低用量アスピリン療法(保険適用外)を開始し,ヘパリンを併用する場合には妊娠反応確認後の早期にヘパリンカルシウム製剤1万単位(施設によっては5000単位)の皮下注射を導入し,陣痛発来まで継続します。

低用量アスピリン療法(保険適用外)は,インフォームドコンセントのもと,アスピリンを用法外投与で通常妊娠35週まで継続します。ヘパリン療法には,ヘパリン起因性血小板減少症や肝機能障害,注射部位を中心とした皮膚障害などの副作用を伴う可能性があるため,導入に際しては相応の注意が必要です。

また近年,不育症のスクリーニング検査は不妊治療専門施設でも広く行われていますが,その解釈は難しい場合が多々あります。反復着床不成功症例や反復生化学的妊娠における不育症検査の意義や解釈についても,現時点では一定の見解はありません。

治療の導入に際しては,不育症専門医による症例に個別化した判断が望まれ,不育症治療専門施設と不妊治療専門施設,さらに妊娠成立後に引き継ぐ周産期施設との連携が重要になりますが,現状では広く実現されてはおらず,今後の課題と言えるでしょう。

【回答者】

桑原慶充 日本医科大学産婦人科学准教授

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