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(1)高尿酸血症と生活習慣病:疫学的な関連とそのメカニズム [特集:高尿酸血症からアプローチする生活習慣病の治療]

No.4787 (2016年01月23日発行) P.20

箱田雅之 (安田女子大学家政学部管理栄養学科教授)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-01-27

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  • 血清尿酸値と生活習慣病との疫学的関連は,女性のほうが男性よりも強い

    尿酸が生活習慣病発症に直接関与するというエビデンスは,ヒトを対象とした研究からは得られていない

    尿酸は中枢神経疾患の発症や進行を抑制する可能性がある

    1. これまでの研究の概要

    高尿酸血症は,痛風のみならず動脈硬化性疾患や高血圧,糖尿病,メタボリックシンドローム(MetS)などの生活習慣病と関連することが示唆されている。これらの関連は,観察開始時の血清尿酸値とその後の疾患発症,あるいは死亡との関係について,ヒトの集団を長期間にわたって調査した疫学的研究から示されたものである。
    高尿酸血症と生活習慣病との関連メカニズムについて,尿酸が直接的に病態に関与しているのか,あるいはリスクマーカーとして間接的に関与しているのかは,治療を考える上で大きな問題である。しかし,この問題については国際的なコンセンサスを得るに至っていない。動物実験では,血圧や血管病変に対して尿酸の直接的関与を示唆する結果が以前報告されており,わが国を含めこの動物実験データを引用して尿酸の動脈硬化性疾患への関与の仕方についての議論が盛んに行われた。しかし,最近同様の実験系を用いて,尿酸の直接関与を否定する結果が複数報告されている。また,最も重要なヒトを対象とした検討では,尿酸自体の関与を示唆するものはほとんどない。
    本稿では,これらの議論を総括し,尿酸と生活習慣病との関連およびそのメカニズムについて論じたい。

    2. 高尿酸血症と生活習慣病との疫学的関連

    高尿酸血症が,心筋梗塞や脳卒中などの動脈硬化を基盤とした心血管疾患のリスクと関連するかについては,これまで多くの研究がある1) 。報告によって関連があるとするものとないとするものとがあり,男性では女性に比べて関連がないという報告が多い傾向にある1)。複数の報告のメタ解析によれば,高尿酸血症と虚血性心疾患による死亡には有意な関連があることが示されているが,男女でわけると女性のみに有意な関連が認められている(図1)2)。筆者らも血清尿酸値と心血管疾患による死亡との関連を,原爆被爆者を対象として検討したが,女性においては6.0mg/dL以上において有意な関連がみられた一方,男性では8.0mg/dL以上においても有意な関連は認められなかった(図2)3)



    血清尿酸値は,高血圧の発症とも関連することが多くの報告で示されている4)。心血管疾患に比べて報告によるばらつきが少ない傾向にあるが,やはり男性に比べて女性のほうがやや高めのリスクが報告されている(図3)4)

    糖尿病や耐糖能異常の発症についても血清尿酸値が関連することが複数の報告で示されている5)。この場合も,女性のみに関連が認められたとするわが国からの報告があり6),やはり関連には男女差が存在するようである。
    MetSにおいても,血清尿酸値と発症リスクが関連することが示されており,この場合も女性のほうが尿酸値上昇による発症リスクは男性よりも高い傾向がみられる7)
    以上のように種々の生活習慣病において,血清尿酸値がその発症リスクと関連することが示されているが,その関連は女性のほうが男性に比べて強い傾向にあり,また女性ではより低い尿酸値から関連がみられる。尿酸が直接的に発症に関与する痛風においては,血清尿酸値と発症との関連において,男女差は認められていないことから8) ,生活習慣病との関連において男女差が認められたことは,尿酸が直接発症に関与していない可能性を示唆する。

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