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No.5144:高齢者が「風邪を引いた」と言ってきたら─コロナ禍における風邪診療─

登録日:
2022-11-24
最終更新日:
2024-01-26

執筆:進藤達哉 黒田浩一 (兵庫県立はりま姫路医療センター総合内科医長 *神戸市立医療センター中央市民病院感染症科副医長)

進藤達哉:2013年神戸大学卒業。神戸市立医療センター中央市民病院総合内科,亀田ファミリークリニック館山を経て,2022年より現職。感染症専門医。感染症診療の傍ら,妊婦健診のできる家庭医としてウィメンズヘルスに取り組む。

1 高齢者の「風邪」
・高齢者は風邪を引きにくいとされており,1年当たりの急性気道感染症の罹患回数は,乳幼児と比較すると1/4程度に減少する。高齢者が「風邪を引いた」と言ってきたときは,その背景にある真の主訴と病態を読み解く必要がある。
・コロナ禍になり,完全に風邪は除外診断になったため,風邪の診断のためには風邪以外の重要な鑑別疾患をまず除外することが必須となった。

2 コロナ禍における風邪診療
(1)新型コロナウイルス感染症の診断
・コロナ禍において高齢者が「風邪を引いた」と言って来たら,まず除外すべきはCOVID-19。
・vital signが崩れているときはCOVID-19の検査と同時にFever work upや初期蘇生を開始しなければならない。
・抗ウイルス薬の適応を逃すことは絶対に避けるべきであり,院内で検査ができないとしても必ず当日中に検査を提出するように努力すべき。
・検査が陰性でも代替診断がない場合は,COVID-19の可能性を念頭にFull PPEで原因検索を行う。
(2)主訴ごとの重要鑑別疾患
①咽頭痛:急性喉頭蓋炎とLudwig anginaは高齢発症も多く報告されており注意が必要である。
②咳嗽:急性咳嗽で喀痰も伴う場合は化学性肺臓炎,誤嚥性肺炎が強く疑われる。
③鼻汁:鼻汁が主訴となる緊急性が高い疾患はほとんど存在しないため,それほど焦って検査をすることはない。
④倦怠感/食思不振:問診と身体所見からある程度,検査前確率を推測し,疑わしい疾患と緊急性が高い疾患から優先的に精査を進めていく。
(3)検査陰性で,精査を行っても代替診断がつかないとき
・初回で抗原定性検査を行ったのであれば,できれば翌日に再検すべきであり,その場合,感度を高めるために核酸増幅検査を選択することがより望ましい。
・特に症状出現当日の抗原定性検査は感度が下がるため,初回検査が症状出現日だった場合は,必ず翌日に再検するように心がける。

3 高齢者ならではの注意点
(1)ACP
・終末期には70%の患者で意思決定が不可能になってしまっている。
・COVID-19と確定したときには必ずACPを行うようにし,万が一重症化したときにどのような対応を希望しているか,そして診断時の流行状況でその希望が叶えられる見込みがあるかを患者とキーパーソンと医療者の間で共有しておく必要がある。
(2)患者説明は丁寧に,かつ感染リスクに注意
・認知機能が低下している可能性がある高齢者に対しては,息子や娘にも同様の説明をしたり,説明用紙を渡すなどの工夫が必要である。
(3)ポリファーマシーと副作用に注意する
・薬物治療の第一選択はパキロビッドであるが,併用禁忌薬が多く,アゼルニジピンやリバーロキサバンなど,多くの高齢者が内服している薬も含まれているため,注意が必要である。
・高齢者は定期内服薬がある場合が多く,ポリファーマシーのリスクが高い。
(4)フォローアップ場所を考える
・家族の負担が増えることは望ましくないため,電話・オンライン診療によるフォローアップを行うか,特別訪問看護指示書を記載し訪問看護を依頼するという方法も検討する。

1 そもそも風邪とは何か

風邪は先進国において最も頻度の高い急性疾患1)2)であり,風邪を診たことのない医師はおそらくいないと思われる。一方で「そもそも風邪とは何?」と定義を問われるとなかなか答えられない人も多いのではないだろうか。風邪に紛れた疾患を適切に鑑別するためにも,まず本稿では風邪の定義について概説する。

結論から言うと,世界共通の風邪の定義は調べえた限り存在しない。このため本稿では,感染症医にとってのバイブルである『マンデル/ダグラス/ベネット 感染症エッセンシャル』3),医師にとって必要不可欠なツールである「UpToDate4),さらに厚生労働省作成の「抗微生物薬適正使用の手引き 第2版」を参考にし,「様々なウイルスによって生じ,たとえ高齢者が罹患しても大半は自然に軽快する急性の気道感染症」と風邪を定義しておく。

このように医師ですら定義が難しい「風邪」を患者が正確に理解できているとは考えにくい。このため患者が「風邪を引いた」と言ってきた際,その背景に隠れた真の主訴を見抜き,本当に風邪なのかどうか吟味しなければならないのである。もっとも,(これを言ってしまうと企画倒れになりかねないが)このご時世に「風邪を引いた」と言ってくる高齢者はほぼいなくなり,同じような症状でも「コロナかもしれない」に変わってしまったのだが……。

2 それは本当に風邪なのか

(1)高齢者は風邪を引きにくい?

一般的に風邪の症状は鼻汁・咳嗽・咽頭痛がほぼ同程度であり,かつほぼ同時期に出現するとされている5)。しかし高齢者の場合,そのような典型的な風邪のパターンは少ない。60年以上の人生で何度も風邪を引くうちに,ライノウイルスなど風邪の原因ウイルスに対する免疫がつき,症状が軽くなる6)ことも報告されている。このため「症状はそろわなくて普通」と考えるべきである。

そもそも,ただでさえ高齢者は風邪を引きにくいとされており,乳幼児と比較すると1年間当たりの急性気道感染症の罹患回数は1/4程度に減少する7)8)(図1)。さらにコロナ禍になって以降,わが国ではマスクや手指衛生などの感染対策が功を奏し,2021/2022シーズンまでは,インフルエンザですら鳴りを潜めていた。今冬はインフルエンザの同時流行も懸念されるが,少なくとも2022年10月現在では,2019年以前と比較し患者数ははるかに少ない。このため2022年10月現在,高齢者が「風邪を引いた」と言ってきたときは「そんな稀なことが本当に起きうるのか?」と疑ってかかり,その背景にある真の主訴と病態を読み解く必要がある。

 

(2)コロナ禍で除外診断となった風邪

2019年以前は,全身状態が良く典型的な風邪症状を呈する高齢者には特段の検査を要さず風邪と診断することもできていた。しかしコロナ禍になり,完全に風邪は除外診断になったため,風邪の診断のためには風邪以外の重要な鑑別疾患をまず除外することが必須となった。

従来であれば,ここで主訴別の重要な鑑別疾患をリストアップし,そのアプローチについて記載する流れであるが,現在もなお,新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019:COVID-19)が流行している状況であるため,風邪症状で受診した高齢者で最も疑わしいのはCOVID-19ということになる。COVID-19か否かでその後の検査・治療方針や感染管理対策が大きく異なるため,患者や医療者に不必要な侵襲やストレスを与えないためにも(vital signが安定しているのであれば)COVID-19を除外してから精査を開始するのが望ましい。このため,本稿ではコロナ禍における風邪診療を意識しアプローチ法をまとめる。

3 コロナ禍における風邪診療

(1)新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は風邪なのか

前述のようにわが国ではマスクや手指衛生などの感染対策が功を奏しており,2019年以前と比較して,インフルエンザ,流行性耳下腺炎,マイコプラズマ肺炎など,飛沫感染が主な感染経路である感染症はほぼすべて減少している9)。にもかかわらずCOVID-19の流行は抑えることができず,2022年8月には1日あたりの感染者数が20万人を超え過去最多となり,累計感染者数は2000万人を超えた。

また,重症化リスクが以前に流行していたデルタ株の50%未満と考えられているオミクロン株でさえ,60歳以上の重症化率や致死率はインフルエンザの3倍以上と推定10)(表1)されており,2022年8月のピーク時には連日200人を超える死亡者が報告されていた。


このようにインフルエンザと比してはるかに高い感染伝播性と致死率を誇り,さらに長期間後遺症にも苦しむことがあるCOVID-19は風邪の定義からは逸脱しており,風邪とは別の感染症と考えるべきである。

(2)新型コロナウイルス感染症の診断

COVID-19と風邪は異なる疾患であると理解すべきだが,残念ながら発症初期の症状は酷似しており,両者を症状や身体所見で区別することは不可能である。このため,コロナ禍において高齢者が「風邪を引いた」と言って来たら,まず除外すべきはCOVID-19ということになり,勤務する施設がCOVID-19の診断ができるセッティングなのか否かに応じてマネジメントの方法が異なってくる(図2)。

①vital signが崩れているとき

vital signが崩れているときはCOVID-19の検査と同時にFever work up(後述)や初期蘇生を開始しなければならない。特に敗血症であればできるだけ早く,可能であれば1時間以内に抗菌薬を投与する必要がある11)ため,クリニックや病院の一般外来で対応すべきではない。症状・身体所見・qSOFA(quick sequential organ failure assessment)スコアなどから敗血症を疑った場合はすぐに高次医療機関や救急外来へ搬送することが何より大切と言える。また,入院病床を持たないクリニックの場合,vital signが崩れていなかったとしても,飲水すらできない場合やADL(activities of daily living)が著明に低下している場合などは入院が必要であるため,高次医療機関への紹介が妥当であろう。

②施設内でCOVID-19の診断ができないとき

vital signが安定しており,入院も不要な状態と判断したのであれば重篤な疾患の可能性は低く,またCOVID-19だったとしても軽症と言える。1分1秒を争う病態の可能性は低いため,外注検査でPCR(polymerase chain reaction)などの核酸増幅検査を依頼し,患者には自宅待機して頂く方針が望ましいだろう。もし検体採取すらできないセッティングの場合は発熱外来へ紹介する。

高齢者は軽症のCOVID-19だったとしても重症化リスクが高いため,ワクチン接種歴やそのほかの重症化リスク因子の有無をふまえて,外来管理でもニルマトレルビル/リトナビル(パキロビッド)の処方を検討する。パキロビッドが使用できない場合のみモルヌピラビル(ラゲブリオ)の処方を検討するが,ラゲブリオは後述のようにワクチン3回接種者への入院予防効果がない可能性を指摘されており,リスク・ベネフィットを十分考慮する必要がある。両者は発症5日以内に内服開始する必要があるが,外注検査では流行状況に応じ検体数が増えると結果判明までに日数を要する場合があり,特に休日を挟む場合は結果が遅れる可能性がより高まる。結果が判明する頃には日数が過ぎていた,あるいは既に重症化していた,など抗ウイルス薬の適応を逃すことは絶対に避けるべきであり,院内で検査ができないとしても必ず当日中に検査を提出するように努力すべきである。また,第8波や第9波に備え,簡便で初期投資が不要である抗原定性検査が院内で施行できるように準備を進めて頂きたい。

③施設内でCOVID-19の診断ができるとき

現在ではpoint of careテストと呼ばれる,20分程度で結果が判明する手のひらサイズの核酸増幅検査機器(図3)や検査試薬(表2)が開発され,さらに(やや感度は落ちるが)抗原定性検査キットも広く普及したため,多くの病院やクリニックでCOVID-19の診断が迅速にできるようになった。

 


一方,高齢者に対しFever work upを行う場合,細菌感染症の感染源として頻度が高いのは尿路感染症,肺炎,蜂窩織炎,胆囊炎/胆管炎12)13)であるため,血液培養2セット・尿培養・一般採血・尿定性・胸部X線・腹部超音波検査(肝胆腎)・直腸診(男性のみ)はほぼルーティンの検査として施行することになり,なかなか大変である。しかし,これらの大半はCOVID-19と診断できれば不要な検査となる。このため,20分程度で検査結果が判明する核酸増幅検査や抗原定性検査キットを導入している場合は,vital signの測定と同時にCOVID-19の検査を施行し,結果判明までの20分間で問診や身体所見をとり,陰性の場合のみFever work upを行うようにするとよい。

このような方針をとることで,患者の立場からすると複数回の採血や導尿を避けることができ,さらに検査費用も減らすことができるため,身体にも財布にも優しいマネジメントを受けることができると言える。また医療者の立場からしても,Full PPE(personal protective equipment,N95マスクまたはサージカルマスク,ガウン,手袋,ゴーグルまたはフェイスシールド)で長時間診察することを避けることができるため,身体的にも精神的にも負担を減らすことにつながる。さらに昨今問題となっている国民医療費の観点からも,不要なFever work upを割愛することで,1人当たり医療費を1万円以上減らすことができる(表3)。

当院(兵庫県立はりま姫路医療センター)では,point of care PCRが可能なRoche社のコバス Liat を2台導入しているため,一般外来を受診した患者で発熱症状や上気道症状がある場合は,まずPCR検査を行い,結果判明までは車などで待機して頂く方針をとることで不要な検査や感染リスクを減らすことが可能となっている。

④検査陽性のとき

COVID-19が流行している状況では偽陽性の可能性はきわめて低いため,検査陽性であればCOVID-19と診断してよい。ただし,直近にCOVID-19に罹患していた場合は,隔離期間終了後も抗原検査やPCR検査が陽性になる場合があるため,注意が必要である。韓国CDCのレポート14)によると,隔離解除後にPCR検査が再陽性になった226例の検討では発症から平均44.9日間陽性が持続したと報告されており,わが国からの報告でも最長60日間,PCR検査が陽性になったと報告されている15)

また,オミクロン変異体(BA.1,BA.2)に感染歴がある場合,第7波の原因であるBA.5に対しても抗体は十分量産生され,75%程度の感染予防効果があるとされている16)。同じ系統の変異ウイルスによる1~2カ月以内の再感染は稀と考えられており,直近で感染歴がある場合は結果の解釈に注意が必要である。

前述の通り,高齢者の場合は軽症のCOVID-19でも重症化リスクが高いため,ワクチン接種歴やその他の重症化リスク因子をふまえ,積極的に抗ウイルス薬で治療すべきである。外来管理であればニルマトレルビル/リトナビル(パキロビッド),入院管理であればレムデシビル(ベクルリー)が第一選択となる。パキロビッドはリトナビルの影響で併用禁忌薬や併用注意薬が非常に多いため,処方前に必ずおくすり手帳を確認する必要があり,やや煩雑であるが,現時点でワクチン接種者に対しても重症化予防効果がある17)ことが判明している唯一の薬であるため,禁忌がなければ第一選択にすべきである。

パキロビッドもベクルリーも使用できない場合はモルヌピラビル(ラゲブリオ)が検討されるが,ラゲブリオの有効性を評価した研究ではワクチン接種者は除外されており,さらにサブグループ解析では既感染者に限定するとプラセボ投与群と有意差がなかった18)。また,ワクチン接種者に限定すると重症化や死亡を減少させなかった研究もあり19)20),ワクチン接種者にラゲブリオを処方する意義は不明である。ラゲブリオは1カプセル2cmと非常に大きく,1日8カプセルも内服しなければならないため,高齢者に処方する場合は嚥下機能にも注意を払う必要がある。

⑤検査陰性のとき

抗原定性検査はもちろん,PCR検査も感度100%ではなく,さらに検査前確率が高い状況では検査陰性でもCOVID-19を否定することはできない。このため代替診断がない場合は,検査陰性であってもFull PPEで原因検索を行ったほうが安全である。Full PPE下では夏場は特に暑いため,医療者自身の健康にも十分注意すべきである。

(3)Fever work upの適応と内容

高齢者は免疫応答が低下している影響で重症感染症でも20~30%は高熱が出ず,ベースラインから1.3℃以上上昇している場合はFever work upをすべきと考えられている21)。また38.3℃以上の発熱をカットオフとすると,感染症に対する感度は40%しかなかったが,37.2℃では感度83%,特異度89%とまずまず良好な結果となった研究22)もあるため,これらをふまえるとベースラインから1.3℃以上の体温上昇がある場合や,37.2℃以上の発熱がある場合は感染症を疑いFever work upをすべきと言える。

もちろん発熱のみでクリアカットはできないため,たとえば食事量が低下している場合や,同居家族から見ていつもと様子が異なるという場合にもFever work upをすべきと筆者は考える。また,発熱がなかったとしても原因不明の炎症反応高値があった場合は血液培養を追加で提出するようにする。

問診や身体所見で感染部位が推測できる場合を除き,Fever work upとして前述の通り,血液培養2セット・尿培養・一般採血・尿定性・胸部X線・腹部超音波検査(肝胆腎)・直腸診(男性のみ)はほぼルーティンの検査として施行する。それでも発熱の原因が判明しない場合は,感染性心内膜炎を疑い,経胸壁心エコー検査も施行するとよいだろう。

(4)主訴ごとの重要鑑別疾患

高齢者の「風邪を引いた」という訴えは,主訴ではなく本人の解釈モデルにすぎない。熱があるのかもしれないし,倦怠感があるのかもしれないし,咽頭痛があるのかもしれない。複数の症状を呈する場合も多いだろうが,最も困っている症状(≒主訴),最もQOL(quality of life)に影響を与えている症状を聴取し,それを足掛かりに鑑別疾患を挙げていくことが大切である(表4)。

①咽頭痛

咽頭痛は嚥下時痛と非嚥下時痛に分類することができる。嚥下時痛の場合はFive killer sore throat(扁桃周囲膿瘍,急性喉頭蓋炎,咽後膿瘍,Ludwig angina,レミエール症候群)の除外をまず行う必要がある。扁桃周囲膿瘍,咽後膿瘍,レミエール症候群に関しては若年者に多い疾患であり高齢発症はきわめて稀であるが,急性喉頭蓋炎とLudwig anginaは高齢発症も多く報告されており,注意が必要23)24)である。流涎や声の変化を伴う場合は特に強く疑い,クリニックの場合は高次医療機関へ即座に紹介し,喉頭ファイバー検査や造影CT撮像を行う。

緊急性は高くないが頻度の高いものとしては胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease:GERD)が挙げられる。ただし,症状だけで食道癌と区別することは困難であるため,高齢者でGERDを疑った場合は積極的に上部消化管内視鏡検査を行うようにする。免疫抑制薬を使用している場合や化学療法中の場合などは口腔・食道カンジダやヘルペスの頻度が高まるので注意を払う。

非嚥下時痛の場合は,まず急性大動脈解離や急性心筋梗塞など緊急性が高い疾患を除外する。特に突然発症(数秒で痛みがピークに達する)の場合は前者を,そうでない場合は後者を疑う。心電図,血液検査,心臓超音波検査,造影CTなどでこれらが除外できれば緊急性が高い疾患はほぼ否定できたことになる。悪性腫瘍が疑わしければ上部消化管内視鏡検査の予定を組み,それでも異常がなければ咽頭違和感症などの心因性疾患を疑う。

②咳嗽

急性咳嗽で喀痰も伴う場合は化学性肺臓炎,誤嚥性肺炎が強く疑われる。これらを疑った場合は胸部X線写真やCTを撮像することになるが,仮に肺炎像があったとしても,頻呼吸や低酸素血症がない場合は化学性肺臓炎として抗菌薬なしで経過観察することも可能である。単一菌による細菌性肺炎に関しては,コロナ禍で喀痰グラム染色が気軽にできなくなってしまったため,誤嚥性肺炎と区別することが難しくなってしまった。食事の際にムセ込みがなく,下葉以外に浸潤影がある場合は細菌性肺炎の可能性が高まるため,肺炎球菌尿中抗原検査や検査室での喀痰グラム染色をうまく利用し抗菌薬の適正使用を心がけたい。

基礎疾患としてCOPD (chronic obstructive pulmonary disease)がある場合は,ウイルス感染だったとしても急性増悪の原因になるが,喘鳴や膿性痰の出現があれば抗菌薬や副腎皮質ステロイドで治療が必要となる場合もある。また,遷延性~慢性咳嗽の場合,結核と肺癌の除外が最も大切である。百日咳もコロナ禍になってから激減しているが,それまでは高齢者施設などでクラスター感染を起こすこともあったため,施設入所者の場合は忘れずに鑑別に挙げる。咽頭痛のところでも述べたGERDは遷延性~慢性咳嗽の原因にもなるため,咳嗽の原因が呼吸器にあるとは限らないということは知っておく必要がある。

③鼻汁

鼻汁が主訴となる緊急性の高い疾患はほとんど存在しないため,それほど焦って検査をすることはない。また,高齢者はアレルギーに対する免疫応答が低下しているため,アレルギー性鼻炎などアレルギー性疾患の頻度も下がる。このため可能性が高まるのは薬剤性と老人性鼻炎(加齢性鼻炎)である。α遮断薬・β遮断薬・ACE阻害薬などの降圧薬や,抗精神病薬・ベンゾジアゼピン系睡眠薬は鼻汁や鼻閉の原因となることで知られている。

これらの被疑薬がなく,鼻汁以外に症状がない場合は老人性鼻炎(加齢性鼻炎)を疑う。老人性鼻炎は加齢による鼻粘膜の萎縮や,鼻粘膜の加温機能・粘液線毛系機能の低下が原因であり,病気ではない。当然抗アレルギー薬などは無効であり,疑った場合は足湯をしたり温生食による鼻洗浄を用いたりして鼻粘膜の温度を上げることが有用とされている25)

④倦怠感/食思不振

局所症状が軽微で,全身倦怠感や食思不振が主訴の場合,鑑別疾患は非常に多岐にわたる。足白癬や口腔内をentryとしたprimary bacteremiaや,腎盂腎炎などの感染症,low output syndromeや急性心筋炎など循環器疾患,あるいは糖尿病性ケトアシドーシスや副腎不全や低ナトリウム血症など内分泌・代謝疾患のこともあれば,うつ病などの精神疾患のこともある。このため問診と身体所見からある程度検査前確率を推測し,疑わしい疾患と緊急性が高い疾患から優先的に精査を進めていく。いずれにせよ表3のFever work upと一般採血検査は行うべきである。

ポリファーマシーの場合は薬剤性も疑い,降圧薬で低血圧をきたしていないかや,眠剤が効き過ぎていないかなどを検討する。いずれも関連が否定的な場合は老年期うつ病の可能性もあるため,精神科や心療内科への相談も考慮する。

(5)検査陰性で,精査を行っても代替診断がつかないとき

症状があっても各種採血や画像検査で異常がなく,入院適応もないのであればCOVID-19疑いで自宅待機をして頂く。もし初回で抗原定性検査を行ったのであれば,できれば翌日に再検すべきであり,その場合,感度を高めるために核酸増幅検査を選択することがより望ましい。特に症状出現当日の抗原定性検査は感度が下がる26)ため,初回検査が症状出現日だった場合は必ず翌日に再検するように心がける。2回連続で抗原定性検査が陰性の場合や,核酸増幅検査が陰性の場合は,全身状態が良いのであれば培養結果を待ちつつ,遅れて症状や所見が出現してこないか外来でフォローすることが望ましい。

どこまでFull PPEで診察するかは意見がわかれるところであるが,2回連続で抗原定性検査が陰性(あるいは初回の核酸増幅検査が陰性)で,患者も不織布マスクを装着できるのであれば,不織布マスク・アイシールド(フェイスシールド)・標準予防策(手指衛生)のみで十分であると思われる。このような対応策を行った場合,万が一患者がCOVID-19だったとしても医療者は濃厚接触者に該当しない。

4 高齢者ならではの注意点

(1)ACP

ACP(advance care planning)とは,今後の治療方針や療養について,患者本人やキーパーソンと医療者があらかじめ話し合う自発的なプロセスを指す。患者本人の価値観および病状や予後の理解,治療や療養に対する意向などがこれに含まれる。大切なのは終末期には70%の患者で意思決定が不可能になってしまっている27)ということである。このため,かかりつけ医は日々の定期外来の際に時間を見つけてACPを確認していくことが本来望ましく,かかりつけ医のプロである我々家庭医は日常的に行っている。

もしACPを一度もしたことがなかった場合,COVID-19が重症化してからでは意思決定が十分にできない可能性が高い。このためCOVID-19と確定したときには必ずACPを行うようにし,万が一重症化したときにどのような対応を希望しているか,そして診断時の流行状況でその希望が叶えられる見込みがあるかを患者とキーパーソンと医療者の間で共有しておく必要がある。

(2)患者説明は丁寧に,かつ感染リスクに注意

COVID-19に関してはメディアでも連日取り上げられているため,検査陽性時の対応については国民に広く浸透していると思われる。問題は,検査陰性だがCOVID-19が否定できないときの対応である。残念ながら「検査陰性=COVID-19ではない」と考えてしまう人はいまだに多く,検査陰性でもCOVID-19を否定できないこと,外出や公共交通機関の利用は可能な限り避けることなどは丁寧に説明する必要がある。特に,認知機能が低下している可能性のある高齢者に対しては,息子や娘にも同様の説明をしたり,説明用紙を渡すなどの工夫が必要である。

なお,難聴の高齢者に対し近づいて耳元で話すことは医療者の感染リスクを高めることになるため,筆者は介護用品の「もしもしフォン」(図4)を愛用している。


 

(3)ポリファーマシーと副作用に注意する

繰り返しになるが,高齢者は軽症COVID-19でも重症化リスクが高いため,抗ウイルス薬を処方すべきである。第一選択はパキロビッドであるが,併用禁忌薬が多く,アゼルニジピンやリバーロキサバンなど,多くの高齢者が内服している薬も含まれているため,注意が必要である。

また,風邪でもCOVID-19でも,対症療法を行うことに変わりはないが,鎮咳薬や抗ヒスタミン薬などのエビデンスは乏しく,本当に症状が軽快するかは定かではない。一部の発熱外来では解熱剤に加え,トラネキサム酸,カルボシステイン,デキストロメトルファン,オロパタジン,コデインリン酸塩,葛根湯など多種多様な処方がされる場合もあるようだが,薬には副作用や相互作用もあり,数を出せばよいというものではない。

特に高齢者は定期内服薬がある場合が多く,ポリファーマシーのリスクが高い。5種類以上の薬剤を処方された高齢外来患者では,転倒リスクが有意に高まるというわが国の研究28)もあり,特に発熱外来でかかりつけ患者以外に処方する場合は,毎回おくすり手帳を確認するよう心がけるべきである。少なくとも抗ヒスタミン薬やコデインは尿閉やせん妄などのリスクになるため,避けることが望ましい。

また高齢者がCOVID-19にかかると,脱水による腎前性腎不全を合併することもあるので,NSAIDs(non-steroidal anti-inflammatory drugs)の処方も控えたほうがよいと考える。偽性アルドステロン症のリスクも高まるため,「葛根湯」と「小青竜湯」,「小青竜湯」と「麦門冬湯」など甘草含有の漢方薬を2剤以上処方することも避けるべきである。これらをふまえ筆者は表5の通り,極力シンプルな処方を心がけている。



なお,アセトアミノフェンは効果がないと誤解されていることもあるが,単に投与量が不足していることが原因と思われる。体重1Kg当たり15mg使用すれば解熱鎮痛効果はNSAIDsと比較し遜色ないと筆者は考えている。

(4)フォローアップ場所を考える

高齢者は自分1人の力で外来受診できないことがあり,非同居の家族に送り迎えをしてもらっていることも稀ではない。たとえば,新型コロナウイルス抗原定性検査が2回陰性で,Fever work upをしても他に代替診断もなく,培養結果判明まで自宅で経過観察することとなった場合,もし週明けフォローにすると1週間に3回も家族が送り迎えをしなければならないことになる。

家族の負担が増えることは望ましくないため,電話やオンライン診療によるフォローアップを行うか,特別訪問看護指示書を記載し訪問看護を依頼するという方法も検討する。要介護認定を取得していない場合も医療保険を用いて週3回まで訪問看護が可能であるため,密なケアが必要な人に短期間だけ訪問看護を依頼することは有用な選択肢と思われる。

5 症例提示

(1)症例1 デイサービス滞在中に全身倦怠感,咽頭痛,鼻汁,発熱

[Patient Profile]

脊柱管狭窄症,前立腺肥大症,2型糖尿病,慢性腎不全の既往があり,ADLは室内伝い歩きの76歳独居男性。要介護1を取得しており週2回デイサービスに通っている。キーパーソンは他県に住む長男で近隣に身寄りはない。

[現病歴]

受診当日朝はいつも通りだったが,デイサービス滞在中に全身倦怠感,咽頭痛,鼻汁,発熱が出現したため職員に連れられて発熱外来を受診した。確認すると,デイサービスでCOVID-19患者が3名発生しているが濃厚接触者ではないという。新型コロナウイルスワクチンは3回接種していた。おくすり手帳の持参はないが4種類の錠剤,こむらがえりに対し1種類の漢方を内服しているとのことだった。

[現症・検査所見]

vital signは安定しており,食事量は減っているものの飲水はできていた。身体所見では咽頭発赤以外に明らかな異常はなかった。新型コロナウイルス抗原定性検査を施行するも陰性であり,Fever work up(血液培養2セット・尿培養・一般採血・尿定性/沈渣・胸部X線)を施行したが明らかな異常はなかった。

[対応]

COVID-19が疑われたが核酸増幅検査が施行できないため診療情報提供書を作成し,翌日に核酸増幅検査が施行できる病院の発熱外来を受診して頂く方針とした。本人には検査陰性だがCOVID-19が強く疑われることを説明し,自宅待機を依頼した。体重は48kgだったためアセトアミノフェン700mgを処方し,呼吸困難感出現時や全身倦怠感の増悪時は救急要請するようお伝えし帰宅とした。

[経過]

本人から「鼻水どめが欲しい」と要望があったが,鼻水どめの効果は不明瞭であり,さらに前立腺肥大症を悪化させるリスクが高いことを説明しご理解頂いた。また,内服している漢方は芍薬甘草湯と考えられ,偽性アルドステロン症のリスクが高まるため小青竜湯の処方も控えた。後日,紹介した発熱外来からの返書が届き,PCR検査陽性となりCOVID-19と診断されたことが判明した。

(2)症例2 受診当日(月曜日)朝から発熱,咳嗽,全身倦怠感

[Patient Profile]

高血圧,脂質異常症,脳梗塞,腰椎圧迫骨折の既往があり,室内車いす移動の81歳女性。室内伝い歩きの夫と2人暮らし。要介護3を取得し,平日は毎日デイサービスに通っており,土曜日は訪問看護を利用している。

[現病歴]

受診当日(月曜日)朝から発熱,咳嗽,全身倦怠感があり,隣接市に住む息子に連絡し,かかりつけクリニックの発熱外来を受診した。新型コロナウイルスワクチンは脳梗塞による入院が原因でまだ2回しか接種していなかった。

[現症・検査所見]

vital signは37.8℃の発熱がある以外は安定しており,食事量も保たれていた。等温核酸増幅検査〔NEAR(nicking enzyme amplification reaction)法〕は陰性だった。Fever work up(血液培養2セット・尿培養・一般採血・尿定性/沈渣・胸部X線)を施行したが明らかな異常はなかった。

[対応]

COVID-19の可能性が残るためデイサービスは中止し,翌日再受診を指示した。

[経過]

翌日(火曜日)にも再検査を行ったが陰性であり,3日後(金曜日)に培養結果説明も兼ねてフォローする予定とした。しかし,息子から「今週既に2日間も仕事を休んでいるので,これ以上平日に休むのは難しい。なんとか他に方法はないか」と相談があった。e-learning研修を受けていなかったためオンライン診療はできず,特別訪問看護指示書を記載し,今週のみ水・木・金と訪問看護を依頼する方針とした。訪問看護師からの報告では,水曜には解熱し全身状態も良いようだった。土曜に再度外来フォローした際にはいつも通り元気になっており,採血上も異常なく培養結果も陰性だった。今回の発熱は一過性誤嚥の可能性が考えられ,翌週の月曜からデイサービスを再開可能とお話しした。

【文献】

1)Kirkpatrick GL:Prim Care. 1996;23(4):657-75.

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27)Silveira MJ, et al:N Engl J Med. 2010;362(13):1211-8.

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