WHOのFact Sheetによると,B型肝炎ウイルス(HBV)の感染者は全世界で約20億人,うち2.57億人がHBs抗原陽性キャリアである。HBs抗原陽性キャリアの自然経過は,免疫寛容期,排除期,監視期と区分され,免疫排除期が長期間続くと肝硬変に進展し,肝癌を併発する。核酸アナログを投与してHBV-DNA量を低下させると,肝炎は鎮静化して肝硬変への進展は防止できる。しかし,HBs抗原量の低下が十分でないため,肝癌発生は減少していない。一方,HBs抗原陰性の既往感染例も,免疫抑制・化学療法の際には,ウイルス再活性化による重症肝炎のリスクがある。わが国では2016年度に開始されたuniversal vaccinationの影響が露わになるまで,状況に変化はみられないであろう。しかし,若干でも好転させる曙光として,第5の核酸アナログであるテノホビル アラフェナミド(TAF)の長期処方が認められた。TAFは安全性が高く,一定のHBs抗原量低下も期待できる。これを契機に,B型肝炎の治療を巡る諸問題を概説して頂く。
1 B型肝炎の診療ガイドライン─HBV再活性化も含めて
松波加代子(名古屋市立大学大学院医学研究科消化器・代謝内科学/病態医科学)
田中靖人(名古屋市立大学大学院医学研究科病態医科学教授)
2 新たな核酸アナログ・テノホビル アラフェナミドフマル酸塩 (TAF)の有用性
朝比奈靖浩(東京医科歯科大学消化器内科・肝臓病態制御学講座教授)
3 残された問題点─HBs抗原の陰性化を目指して
鈴木文孝(虎の門病院肝臓内科部長)
4 universal vaccinationのインパクトと問題点
四柳 宏(東京大学医科学研究所附属病院感染免疫内科教授)