戦前の日本人は肺炎,結核などの感染症での死亡が多かったが,戦後,抗菌薬の開発が進み,感染症での死亡は激減した。しかし,肺炎は1980年代から再度増加傾向となり,2011年には死亡原因の第3位を占めることとなる。この増加の原因としては急激な高齢化が挙げられ,特に高齢者特有の誤嚥性肺炎や老衰,疾患終末期の肺炎の増加が背景にある。
以前のガイドラインでは市中肺炎,院内肺炎ともに,主に疾患の重症度に伴った抗菌薬の選択が推奨されてきた。しかし,医療・介護関連肺炎の概念が出現するとともに,高齢者肺炎の特殊性が浮き彫りとなっていった。最新の「成人肺炎診療ガイドライン2017」は,高齢者肺炎に特に注目したものとなっている。最新の死亡原因の調査では,老衰の増加や誤嚥性肺炎の追加などによって,肺炎は,がん,心疾患,脳血管疾患,老衰に次いで第5位(誤嚥性肺炎は第7位)となっている。高齢者の肺炎は,誤嚥性肺炎が非常に多いことが特徴であり,重症度のみを考慮した単純な抗菌薬による治療では対応が難しい。
本特集では,特に高齢者肺炎に注目し,その診断や治療の特徴について3人の先生方に執筆して頂いた。本特集が,読者諸氏の明日からの診療のお役に立てば幸いである。
1 高齢者肺炎の臨床的特徴
小宮幸作(大分大学医学部呼吸器・感染症内科学講座准教授)
2 誤嚥性肺炎のリスクと原因菌
野口真吾(産業医科大学医学部呼吸器内科学講師)
3 高齢者肺炎の治療とポイント
今村圭文(長崎大学医学部第二内科講師)