医療用医薬品としてのプロバイオティクスの効能は,「腸内菌叢の異常による諸症状の改善」と「抗菌薬,化学療法薬投与時の腸内菌叢の異常による諸症状の改善」である
乳酸菌製剤,ビフィズス菌製剤,酪酸菌製剤の特徴として,特に胃酸,酸素濃度などの環境により菌生育が異なり,各種短鎖脂肪酸産生能も異なる
プロバイオティクス,プレバイオティクスともに,臨床的エビデンスは海外に比較して乏しく,明確な使いわけの根拠はない
腸内微生物叢研究における画期的な成果が発表され,腸内環境に対する臨床医の関心が高まっている。これまで,乳酸菌,ビフィズス菌といった名前は知っていても,その機能性,特に腸内環境改善作用が今ほど注目されてはいなかった。腸内微生物叢の概要が遺伝子解析技術により明らかとなり,ヒト個体の細胞数以上に存在する100兆個を超える細菌叢がどのような機能を有し,どのようにして宿主との共同生命体を形成しているかを理解することは,健康増進対策のヒントとなるだけでなく,疾病の予防・治療に向けた重要な研究領域となっている。残念ながら医療用医薬品におけるプロバイオティクス・プレバイオティクスの応用は限定的であり,臨床的エビデンスレベルは決して高いものではない。逆に,食品分野では「特定保健用食品」や「機能性表示食品」として関連の食品・サプリメントが市場に数多く投入されている。
本稿では,まず医療用医薬品としてのプロバイオティクスについて現状を整理し,その後にプレバイオティクス,さらには両者を併せたシンバイオティクスについても解説した。
プロバイオティクス(probiotics)は抗菌薬(antibiotics)に対比される言葉で,共生を意味するプロバイオシス(probiosis:proともに,~のために,biosis生きる)を語源としている。「腸内細菌叢(フローラ)のバランスを改善することにより,ヒトに有益な作用をもたらす経口摂取可能な生きた微生物」という定義が広く受け入れられているが,最近では消化管に限定されていた効果を皮膚,口腔,泌尿生殖器などの常在細菌叢が存在するすべての臓器にまで拡大することも提唱されている。プロバイオティクスが十分に機能を果たすためには,プロバイオティクス自体の,①安全性が十分に保証されていること,②もともとヒト腸内細菌叢の一員であること,③胃液や胆汁に耐えて腸内に到達できること,④腸内で増殖できること,⑤経口摂取でき有効な菌数が維持されていることなどが求められている。医療用医薬品としては表1に示すように多くの製剤があり,乳酸菌製剤,ビフィズス菌製剤,酪酸菌製剤に分類すると理解しやすい。しかしながら効果・効能としては,「腸内菌叢の異常による諸症状の改善」と「抗菌薬,化学療法薬投与時の腸内菌叢の異常による諸症状の改善」以外にはなく,使いわけのエビデンスはない。
プロバイオティクスとして思いつく菌は乳酸菌とビフィズス菌であるが,この両者は似ているようで異なる特徴がある(表2)。乳酸菌は通性嫌気性であり,主に小腸に存在するのに対し,ビフィズス菌は偏性嫌気性であり,酸素の存在下では生育できないため主に大腸に存在している。さらに生成する短鎖脂肪酸も乳酸菌は乳酸であり,ビフィズス菌は乳酸に加えて酢酸を産生することも特徴である。様々な乳酸菌製剤,ビフィズス菌製剤が食品市場で「特定保健用食品」や「機能性表示食品」として応用され,腸内環境を整える生体の様々な効能が報告されつつあり,実験動物を用いた研究により多くの科学的知見が得られつつある状況にある。しかしながら,今回の特集の目的は基礎研究の紹介ではなく,臨床におけるプロバイオティクスの使いわけであるため,医療用医薬品として認可されているものを中心に解説した。残念ながら現状で使用される医療用医薬品としてのプロバイオティクスは,その多くが20年以上前の成績で,最近実施されているような二重盲検比較試験による成績はほとんどないのが実状である。
乳酸菌は糖を代謝して乳酸を産生する細菌類の総称で,乳酸のみを最終産物として作り出すホモ乳酸菌と,ビタミンC,アルコール,酢酸など乳酸以外のものを同時に産生するヘテロ乳酸菌に分類されている。桿菌のLactobacillus属と球菌のLactococcus属がよく知られているが,ほかにも多くの属と種の菌が存在する。臨床の場において最も頻用される乳酸菌製剤の効能・効果は,抗菌薬,化学療法薬投与時の腸内菌叢の異常による諸症状の改善である。ビオフェルミン®R,エンテロノン®-R,ラックビー®Rなどがあるが,前2者は抗菌薬耐性乳酸菌Streptococcus faecalisであるが,ラックビーRは抗菌薬耐性Bifidobacterium bifidum菌である。抗菌薬,化学療法薬投与時の腸内菌叢の異常による諸症状の改善効果については,その臨床試験はビオフェルミンR,エンテロノン-Rが1970〜80年代,ラックビーRが1994年に実施されたものであり,現在の医薬品開発のようなレベルではない点に注意しておく必要がある。
さらに,抗菌薬投与後の腸内細菌叢の回復がプロバイオティクス投与により遅延するといった驚くべき結果も報告されている1)。抗菌薬処置後に,腸粘膜マイクロバイオームのα多様性が激減することを確認し,プロバイオティクス投与がもたらすそのマイクロバイオームの修復が,無処置経過観察による自発的修復よりも長時間を要し,不完全となることが報告されている。さらにこのプロバイオティクスの作用は,in vitro実験からLactobacillus属乳酸菌が分泌する可溶性因子に誘導されることも示唆された。同じグループは,プロバイオティクスのヒト腸粘膜定着に関する成果も報告しており,プロバイオティクスが腸粘膜マイクロバイオームの構成や宿主の腸粘膜遺伝子発現に与える影響が,腸粘膜定着パターンの個人差に応じて異なることが明らかとなり,プロバイオティクス投与には個別化が必要である可能性が示されている2)。
最近では,乳酸菌製剤を用いた臨床試験は国内だけでなく,海外でもきわめて盛んとなってきている。日本人2型糖尿病患者に対するLactobacillus casei Shirota株の有用性がランダム化比較試験(RCT)により報告されている。70人の2型糖尿病患者を対象に,Shirota株摂取群と非摂取群で16週間のRCTの結果,摂取群では便中総Lactobacillus属菌が非摂取群に比較し有意に増加し,さらに腸内から血液中に移行した総菌数が16週後において摂取群で有意に低下していた3)。プロバイオティクスが腸管バリア機能を強化する可能性を示す結果である。Lactobacillus casei Shirota株は,膝関節炎4),睡眠障害5),術後肺炎6)などに対する臨床試験を積極的に展開しており,エビデンスレベルの高い知見が得られつつある。
Lactobacillus brevis KB290株は既に機能性食品として利用されているが,過敏性腸症候群7)や軟便傾向の健常人8)を対象にした二重盲検比較試験の結果が報告され,腹痛などの自覚症状に対する改善作用が認められている。これらの試験はプラセボを対照にした二重盲検比較試験であるため,そのエビデンスレベルは高いが,医薬品試験に比較するとn数からはまだまだ不十分である。
日本人の腸内細菌叢においてビフィズス菌は平均10%前後を占める優勢菌で,乳糖オリゴ糖などを分解して乳酸や酢酸を産生して腸内のpHを低下させ,腸内の環境を整える。大腸におけるいわゆる善玉菌の90%以上はビフィズス菌とされている。乳酸を産生するため乳酸菌でもある。これまでに60種以上のビフィズス菌が同定されているが,ヒトの腸管内では,B. bifidum,B. breve,B. infantis,B. longum,B. adolescentisの5種が主に棲息している。医薬品としては,B. bifidum,B. longum,B. infantisの3種が使用されている。日本人の健常人の腸内細菌叢をメタゲノム解析した結果,20〜80歳代まで各世代ともにビフィズス菌は平均10%前後の占有率であるが,その分布は正規分布ではなく,2%以下の低値のグループが25%もあることが報告されている9)。過去には年齢とともにビフィズス菌は減少することが示されてきたが,原因は不明であり,最近の日本人ではビフィズス菌量がゼロの人も稀ではなく,糞便の性状が軟便傾向のヒトではビフィズス菌量が少ないことも報告されている。ラックビーはB. longum,B. infantisを含むビフィズス菌製剤として頻用され,下痢,便秘といった便通異常に対する臨床的有効性があるものの,盲検比較試験の結果は少ない。
ビフィズス菌は一般的には胃酸に弱いため,特殊なコーティング技術を用いないラックビーやビオフェルミン錠では,ビフィズス菌がある程度胃酸で死滅することは避けられない。1錠中の菌量はラックビーで4.5×107個,ビオフェルミン錠で106~109個とされているが,pH 3.0の環境で3時間後には1/10以下になり,pH 1.0では激減するために,ビフィズス菌製剤は食後の投与が原則である。
海外では最近,ビフィズス菌を用いたエビデンスレベルの高いヒト臨床試験が数多く報告されている。マレーシアでの呼吸器感染予防10),小児ロタウイルス腸炎11),過敏性腸症候群のうつ症状12)や腹部症状13),季節性アレルギー14)15)などの二重盲検比較試験が報告され,科学的エビデンスが構築されつつある。
基礎研究による成果により,日本人の腸内細菌叢から分離された17種のクロストリジア菌カクテルが制御性T細胞を誘導し,炎症,免疫応答を制御していることが明らかとなり,その分子機構においてクロストリジア菌の生成する酪酸が重要な役割を果たすことが明らかとなった。
わが国では,医療用医薬品として,Clostridium butyricum MIYAIRI(宮入菌:ミヤBM)とClostridium butyricum TO-A(ビオスリー)の2種が使用されている。宮入菌は日本人の腸内より発見された偏性嫌気性芽胞形成グラム陽性桿菌で,胃酸に抵抗性があり,小腸で芽胞を形成し,大腸で増殖,酪酸を産生し,腸内フローラ改善作用を有することが知られている。さらに,ミヤBMはClostridium difficile(CD)の芽胞の発芽および増殖を抑制し,CD感染症の予防効果が知られている。しかしながら,厳密な盲検比較試験は実施されていない。ミヤBMは1968年に発売された医薬品であるが,最近でも臨床試験が実施され,抗菌薬起因性下痢予防16),潰瘍性大腸炎術後の回腸囊炎の予防17),Helicobacter pyloriの除菌療法における有用性18)などが示され,安全性に関する試験も実施されている19)。
ビオスリーはClostridium butyricumに乳酸菌Streptococcus faecalisと糖化菌Bacillus mesentericusの3種類による配合薬である。糖化菌はアミラーゼを産生し,デンプンを糖へ分解するため,デンプンを分解できない乳酸菌の増殖を促進する働きがある。ビオスリーはこういった菌相互の共生関係をうまく利用した製剤でもあり,主に幼小児の胃腸炎,下痢症に対する有効性が報告されている。有害菌の発育を阻止して腸内細菌叢の正常化を図り,ビフィズス菌などの菌叢を増加させ,整腸作用を発揮するとされている。
プロバイオティクスに比較してプレバイオティクスという概念は,1995年,Gibson(微生物学者)により提唱されたとされる。
プレバイオティクスとは,①消化管の上部で分解・吸収されない,②大腸に共生する有益な細菌の選択的な栄養源となり,それらの増殖を促進する,③大腸の腸内フローラ構成を健康的なバランスに改善し維持する,④人の健康の増進維持に役立つ,などの条件を満たす食品成分を指す。具体的には,プレバイオティクスの摂取により,乳酸菌・ビフィズス菌の増殖が促進される。医療用医薬品として認められているものはないが,代表的なプレバイオティクスは難消化性オリゴ糖と一部の食物繊維である。オリゴ糖には多種類あり,フラクトオリゴ糖,乳糖果糖オリゴ糖,大豆オリゴ糖,ガラクトオリゴ糖などが広く消費されている。
腸内細菌叢のメタゲノム解析が普及するに従い,日本人を対象とした結果も報告され,腸内細菌叢の乱れや多様性の低下に食物繊維摂取量の低下が問題視されている。厚生労働省の日本人の食事摂取基準(2015年版)によると,食物繊維の目標量は,18歳以上では1日当たり男性20g以上,女性18g以上とされているが,最近の調査では平均14gにまで低下していると報告されている。
食物繊維には不溶性と水溶性の2種類があるが,不溶性と水溶性をバランスよく摂ることが必要で,毎日の食事から食物繊維の摂取を心がける必要がある。食物繊維が腸内細菌叢,特にビフィズス菌をはじめとする善玉菌と言われるような腸内細菌の餌となることが,さらには食物繊維の積極的な摂取が腸内細菌叢を変化させることが明らかになりつつある。その機能性の一部は食物繊維を代謝し,腸内細菌叢から産生される短鎖脂肪酸(酪酸,酢酸,乳酸など)の直接的あるいは受容体を介した機能により説明されている。短鎖脂肪酸は主に宿主のエネルギー源として利用されるが,さらに,脂肪酸受容体(GPR41やGPR43)を活性化することにより交感神経系を介して,エネルギー恒常性の維持に関わることも明らかにされている。
最近のScience誌に報告された糖尿病患者に対する食物繊維の介入試験はきわめて興味深い20)。糖尿病患者を対象に食物繊維を用いた盲検比較試験を実施し,食物繊維群でヘモグロビン(hemoglobin:Hb)A1cが1カ月後に有意に低下し,3カ月の試験期間中経時的に減少する結果となった。さらに,便マイクロバイオームのメタゲノム解析の結果,食物繊維群で有意にビフィズス菌量が増加し,酪酸,酢酸産生量の便中濃度の増加,血清消化管ホルモングルカゴン様ペプチド(glucagon-like peptide-1:GLP-1)の増加と相関することが報告された。
外因性のビフィズス菌投与ではなく,食物繊維などのプレバイオティクスが個人に固有のビフィズス菌を増加させることにより,腸内環境を整えることが治療につながることを示した点で重要な報告となった。
シンバイオティクスは,プロバイオティクスとプレバイオティクスを組み合わせたものである。プロバイオティクスとプレバイオティクスを一緒に摂取すると,プロバイオティクスの持つ腹部の健康を守るとともに宿主本来の力を強める機能が,さらに高められると考えられている。栄養学の分野では注目されているが,実際に医薬品として応用例はない。Shimizuらは21),Bifidobacterium breve,Lactobacillus casei strain Shirota株,ガラクトオリゴ糖によるシンバイオティクスについて,ICUにおける人工呼吸器管理の患者に対するRCTを実施し,腸炎や肺炎の予防効果があったことを報告している。シンバイオティクスの概念は,医学研究の方向性としては正しいと考えるが,シンバイオティクス,プレバイオティクスそのものの研究がまだまだ不十分であることは注意する必要がある。
プロバイオティクス,特に医療用医薬品を中心に解説した。海外ではヒトを対象にした多くの臨床試験が実施あるいは進行中であるが,わが国においては臨床研究法の実施に伴い,こういった試験の実施が困難になりつつあり,非常に残念である。日本人の腸内細菌叢の概要が明らかとなり,個人差,性差,年齢差が存在することがわかった。個々の腸内細菌叢に応じた個別のプレバイオティクス,プロバイオティクスを選択できる時代が来ることを期待したい。
●文献
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2) Zmora N, et al:Cell. 2018;174(6):1388-405, e21.
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