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坂本昌彦

登録日:
2023-02-14
最終更新日:
2024-05-27
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  • 「子どもの暑熱馴化について」

    外遊びは子どもの発達にとって非常に重要で、認知、運動能力、探索能力、学習スキルを向上させることが多くの研究により示されていますが、暑い時期の外遊びは熱中症のリスクも伴います。気候変動の影響で近年の夏の暑さは厳しくなり、子どもの熱中症対策への関心も高まっています。熱中症の予防には水分補給、体を冷やすこと、こまめに休むことが重要ですが、も効果的です。

    暑熱馴化とは、一定期間暑さにさらされることで体が順応し、発汗量の増加や心拍数の低下などを引き起こし、体液バランスの改善や心血管機能の安定化により運動パフォーマンスの向上が見られる反応です。暑熱馴化の程度や期間には個人差があり、成人アスリートの場合は通常7〜10日間で暑熱馴化が完了しますが、その効果は繰り返し暑い環境にさらされていないと失われ、2週間で30%が失われ、1カ月経つとほぼすべて失われてしまいます。こまめに暑い環境にさらされることは獲得した暑熱馴化を維持する上で重要です。

    一方小児では、暑熱馴化の進行は成人よりも遅く、獲得できる程度も低いことがわかっています。幼児や思春期前の子どもは発汗機能が未熟で、心血管機能も成人ほど成熟していないためです。陸上スポーツに関わる中学生の場合、暑熱馴化には14日以上が必要であるとされていますが、これは成人より少し長い期間です。一般の子どもに対する具体的なガイドラインは確立されていませんが2〜3週間といったところでしょうか。

    汗腺が未発達で心血管系もまだ十分に成熟していない子どもの暑熱馴化には限界があることを強調しておきたいと思います。暑熱馴化が完了しても過信はせず、やはり基本的な予防策である「水分摂取」「休息」「冷却」を心がけることが大切です。暑熱馴化は維持も大事ですので、最終的な助言は「毎日こまめに、無理のない範囲で外遊びをしましょう」に落ち着くのかなと思います。なお、外遊びを安全に行うため、日陰や樹木が豊富な遊び場を選ぶことが重要です。アメリカ・オースティンの学校での研究では、高温時に子どもたちは活動時間を減らし、日陰を探す時間が長くなることが示され、校庭の緑化が子どもの身体活動レベルの向上に役立つことが報告されています。

    このように熱中症対策では暑熱馴化を取り入れつつ、子どもの安全と健康を保つための適切な環境整備が重要と考えています。

    坂本昌彦(佐久総合病院・佐久医療センター小児科医長)[外遊び][熱中症対策]

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