1988年に、UCSF(カリフォルニア大学サンフランシスコ校)へ留学した。大学病院にはいくつものビルがあり、各々寄付した人の名前がついていた。日本でも最近はネーミング・ライツによってホールなどに名前がついている例がみられるが、残念ながら私が所属してきた病院には1つもない。
2018年の日本の保健医療支出は60兆円で、GDP比は10.9%、OECD平均の8.8%より多く、6位に位置している。大学病院をはじめ大規模病院では、960時間という一般の職業から考えると非常に多い時間外勤務さえクリアできずに四苦八苦している。病院の余裕という点からは欧米との差は大きいように感じる。
欧米との差の1つとして、冒頭で述べたように寄付文化の違いは大きく、自治体病院でも建設費や設備費の多くを医業収益で支払っている。そのため新病院を整備することは、大きな負担となる。自治体病院のほとんどが赤字で、利益を上げている病院もほんの数%という状況では、現在のように建設費が高騰してくると新病院の建設は不可能になりつつある。
国や自治体からの支援が増える見込みがなく、不採算医療を担わねばならない自治体病院で持続可能な医療を担うためには、効率化を進めていくことが必須である。がん医療でも、均てん化を進めることによって一定の効果があったが、今後は集約化、役割分担、連携を推し進める必要がある。
ロボット技術や、最先端のIT技術を使った放射線治療の進歩は目覚ましく、扱う疾患としては、手術治療と同等の治療効果が得られるがんが多い。きわめて精密な治療を行うため、精度管理が非常に重要で、強度変調放射線治療(IMRT)の施設要件は放射線治療専門医2名が常駐することとなっている。
兵庫県では国指定のがん診療連携拠点病院が18カ所、県指定が8カ所ある。指定には放射線治療機器が必須であるため、指定をめざす病院では治療機器の導入を進めることになる。治療医は不足しているため、県指定の病院では非常勤医しか確保できておらず、国指定の病院でも1名しか常勤医がいない施設がある。年間100例以上実施するという非常に低い施設基準すらクリアできていない施設もある。
放射線治療機器は高額であり、特殊な施設が必要であるため設置には多額の費用を要する。治療医が少ないため、IMRTの要件である治療医2名を1名にしてほしいという本末転倒な要望が全国的に上がってきている。高度な治療を行うための基準を、施設認定のために、またせっかく導入した機器を使いたいがために歪めるという方向性を懸念している。
最近の放射線治療は短期間で終了することが多い。そのため治療期間だけ転院して、治療後は元の病院に帰ることが可能である。このような事情から、放射線治療機器をいくつかの病院に集約し、機器も人材も集約して多くの患者を治療することによって、機器の稼働率が上がり、経験を高めることで医療の質も上がってくる。今後の精査が必要であるが、兵庫県で5、6カ所を充実させ、連携していくことが妥当な方向だと考えている。
がん医療においては、均てん化の次には集約化と役割分担、連携、これによって質の向上と医療効率を上げることが必須である。
杉村和朗(兵庫県病院事業管理者)[放射線治療専門医][がん診療連携拠点病院]
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