高齢者の診察では収縮期雑音が聴かれることが多い。動脈硬化や高血圧の影響で大動脈弁が硬化して聴かれる場合が多く、大したことないとみなされることがある。しかし、この雑音も重要な診断のカギとなることがあるので、注意すべきだ。次のケースをみてみよう。
80代男性が呼吸困難を主訴に搬送された。最近の健診と病院受診歴はなし。今回は、10日前より労作時の呼吸困難があり、5日前より発作性夜間呼吸困難、昨夜より起坐呼吸があり、今朝救急外来搬送となる。胸痛はなし。診察では、努力様呼吸をしており、顔色が悪く、冷汗をかいていた。
バイタルサインは、血圧110/85mmHg、心拍数140で整、呼吸数40、体温35.5℃、SpO2 91%(O2マスク毎分7L)。四肢末梢は冷たく、両側の前脛骨部から足背にかけて陥凹性浮腫があった。第2肋間胸骨右縁を最強点とする収縮期駆出性雑音(レバイン2度)を聴取した。
心電図では左室肥大の所見あり、胸部単純X線写真は両側肺野びまん性にうっ血を呈していた。ベッドサイド心エコーでは、左心室のびまん性壁運動低下を認めた。担当医は、左心不全の診断で、フロセミド静注に加えて、ニトログリセリンの持続点滴静注を開始した。その開始の数分後、血圧が60/45mmHgへ急激に低下した。ショック状態になった要因は何か?
私が行った身体診察では、収縮期雑音は、ダイヤモンド型ではあるが、late-peakingであり、左右鎖骨に放散する駆出性雑音であった。S2の減弱もあった。末梢動脈触診では、遅脈および小脈を認めた。脈圧は最高血圧の25%未満と小さかった。これらのフィジカル診断により、左心不全の要因は重度の大動脈弁狭窄症(AS)によるものであることがわかった。正式な心エコー検査により、大動脈弁の高度な石灰化と開放制限があった。
重度ASの左心不全ではニトログリセリンなどの血管拡張薬の投与で急激な血圧低下をみることがあり、治療上のピットフォールとなる。このタイプの薬剤を用いるときは注意が必要だ。ASが重度になると、雑音の大きさが逆に小さくなるので、見逃しのリスクが高くなる。この場合の診断エクセレンスは、小脈と遅脈のフィジカル診断だ。
徳田安春(群星沖縄臨床研修センターセンター長・臨床疫学)[小脈と遅脈のフィジカル診断]
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