2020年初頭から始まった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行も3年が経過しました。発生当初はわからないことだらけで、我々感染症学を専門とする者は、これまで世界的に流行を繰り返してきた様々な感染症で学んだ知識や経験を活かしながら、情報提供を行ってきました。しかしながら、常識を覆す事象を引き起こし、その正体を次々と変えて私たちに襲いかかってきたCOVID-19は最も手ごわい相手でした。
メディアインパクトもきわめて大きかったことから、連日にわたり有識者と呼ばれる人たちが様々な情報を発信してきたことも相まって情報が溢れ、時に過剰な煽りとなって様々な社会のゆがみを生み出してしまったのかもしれません。
私自身もその情報発信源の一人ですので、その時は正しいと考え発信した情報であっても後になってそうではなかったこともあり、時に非難され、誹謗中傷を受けたことも少なくはありませんでした。ただ、これまでにメディア等で発言した内容の録画を時々見直しているのですが、ウイルスの正体は大きく変化しているので過去の情報とは異なっているものの、基本的な感染対策については自身の発言した内容はぶれてはいなかったと思っています。メディアにおける有識者の発言はきわめて影響が大きいことから、自らの考えの中での本音と建前のせめぎ合いであり、本当に伝えたいことが伝えられないことも少なくはありません。このあたりがメディアにおいて真の情報を伝えられないもどかしさにつながっているのかと思います。
2022年は行動制限の緩和に伴い、様々な行事やイベントが再開され、コロナ前の日常が戻りつつあります。当院でも下半期あたりから渡航外来を受診する方々が増えはじめ、海外との人の行き来が再開されつつあることを実感しています。2年にわたり構築された公衆衛生の知識やスキルは様々な感染症に対して有意義なものである一方で、過剰な対応や注意喚起が通常の生活に戻ることを困難にしている面もあると思います。
すなわち、COVID-19が終息する可能性がほぼないであろうことを鑑みれば、封じ込めることだけを考えた対策ではなく、いかに付き合っていくかを考えた対策を講じていくべきであると考えます。感染症法の見直しの議論がようやく本格化するようですが、病気を見るだけの机上の議論だけではなく、病人や住民を診ているリアルな医療現場、さらには医療だけではなく社会経済界の意見も取り入れた透明性のある結論を出して頂きたいものです。
【参考】
▶水野泰孝:感染症専門医が教える 新型コロナとの付き合い方. 現代書林, 2022.
水野泰孝(グローバルヘルスケアクリニック院長)[新型コロナウイルス感染症]
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