大腸がん検診結果から2010年に当院では立位困難で85歳以上の腹部に自覚症状のない便潜血陽性者が多く受診した。このため2次の大腸内視鏡検査(CS)をする内視鏡医に不満が爆発していた。確かに米国でのCS普及により大腸がん罹患率低下の事実はある。しかし不満は、超高齢であるために洗腸剤が飲めない、時間内に綺麗にならず検査が時間外労働となることや、洗腸剤の嘔吐・誤嚥・便失禁、低血糖発作、心疾患・脳神経疾患の誘発により検査に危険を感じることにあった。この内視鏡医のストレス軽減と患者安全のため私は2011年から近郊クリニック医師と当院内視鏡医で地域基準作成を開始した。偶然に同時期2012年米国内科学会(ACP)は、無症状の大腸スクリーニングガイドラインで「75歳以上または10年の予後が見込めない人には医師が検査をやめるように勧める」と衝撃の発表をした。地域基準作成メンバーのうち、75歳CS終了では早すぎるなどの意見から全医師が合意できたのは表の2項のみであった。この「世田谷地区大腸内視鏡地域医療連携ローカル・ルール2013」は強制力のない日本初の無症状大腸スクリーニング年齢上限の地域指標(渡辺一宏, 他:Prog Dig Endosc. 2013;82:77-81.)として2013年から運用されている。尚、米国の内科医には2019年でもACPが75歳まで、検診では米国予防医療サービス対策委員会(USPSTF)が2020年10月27日に草稿を発表し、45〜49歳で中推奨B(今回追加)、50〜75歳が高推奨A、76〜85歳で低推奨Cとした。
さて、我々の近郊施設・クリニックの多くが80歳以上CSを受け入れていない。このため地域指標の運用後は、逆に当院の超高齢者CS入院数が増加、高齢者専用入院管理で危険を回避している。微力ながら内視鏡医療で地域貢献ができているかもしれない。
渡邉一宏(公立学校共済組合関東中央病院光学医療診療科部長)[内視鏡医療における地域貢献(最終回)]
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