訪問看護師が患者宅で切りつけられる事件が報道されました。2022年にふじみ野市で在宅医が殺された事件をはじめ、訪問医療・介護の現場では、医療・介護従事者が患者やその家族から暴力やハラスメントを受けるリスクが顕在化しています。厚生労働省の調査によれば、訪問介護職員の約50%が利用者からのハラスメントを経験し、訪問看護職員でも約56%が同様の経験を報告しています 。これらの行為は、身体的暴力、精神的暴力、セクシュアルハラスメントなど多岐にわたります。
このような事態が発生した場合、被害を受けた医療・介護従事者は適切に保護されるべきです。しかし、現実には「対応が悪かったからではないか」と被害者が責められ、二次被害を受けるケースも少なくありません。これは、被害者の精神的負担を増大させ、職場環境の悪化や離職の原因となりえます。
そのため、平時から暴力やハラスメントの兆候を見逃さず、エスカレートしないように対応することが重要です。具体的には、以下の対策が考えられます。
1.事前の情報収集とリスク評価:新規の患者や利用者を受け入れる際、その人の過去の行動や性格、家族関係などを事前に把握し、リスクを評価します。
2.明確なルールの設定と周知:サービス提供の範囲や禁止行為を明確にし、契約時に利用者や家族に説明します。これにより、誤解や過度な期待を防ぎます。
3.職員への研修と教育:ハラスメントの兆候を早期に察知し、適切に対応できるよう、定期的な研修を実施します。また、被害を受けた際の報告手順やサポート体制についても周知します。
4.相談窓口の設置とサポート体制の強化:被害を受けた職員が安心して相談できる窓口を設置し、必要に応じて専門家のサポートを受けられる体制を整えます。
数年前から勇美記念財団の支援を受け、「訪問看護師が利用者・家族から受ける暴力・ハラスメント対策」の研修プログラムをチームで作成しています。プログラム作成メンバーのお一人である関西医科大学の三木明子先生のホームページに、研修の資料やポスターがありますので参考にされて下さい。
訪問医療・介護の現場での暴力やハラスメントは、医療・介護従事者の安全と尊厳を脅かす重大な問題です。組織全体での取り組みと、個々の職員の意識向上が求められていると考えています。
内田直樹(医療法人すずらん会たろうクリニック院長)[訪問医療][訪問介護][ハラスメント]
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