これまでの知見から、ビタミンDにはフレイル・認知機能・生命予後や転倒・骨折リスクなどとの関連性が示唆されており、ビタミンDの多面的作用やビタミンD充足の重要性についても明らかになってきている。
高齢者では、腎臓における1α水酸化酵素活性の低下、食事量の低下、紫外線による皮膚でのビタミンD産生能の低下、小腸でのカルシウム吸収時における活性型ビタミンDの反応性低下などを認める場合が少なくない。そのため、高齢者におけるビタミンDの潜在的な不足の可能性を考慮する必要性が高まり、転倒・骨折予防や骨粗鬆症予防の点からもビタミンDの充足をめざした摂取が推奨される。実際、ビタミンD投与に伴い転倒リスクが20%程度低下したとの報告もあり、こうした転倒予防効果はビタミンD不足の高齢者を対象とした場合により顕在化しやすい可能性や、天然型ビタミンDの単独投与効果よりもカルシウムの併用のほうがより効果的である可能性も指摘されている。
現在、原発性骨粗鬆症の患者に対してECLIA法、CLIA法、CLEIA法による血清25(OH)D濃度の測定が保険収載(保険点数117点)されており、骨粗鬆症の薬剤治療方針の選択時に1回に限り算定できることになっている。
わが国におけるJPOSコホート研究の参加者の中で50歳以上の女性約1200名を対象とした研究では、血清25(OH)D濃度が20ng/mL未満と欠乏している割合が全体の52%、血清25(OH)D濃度が30ng/mL未満の不足群を含めると全体の約9割に達し、ビタミンD充足に達していない高齢者や女性が多く存在している可能性が示された。
皮膚を介してビタミンD推奨量相当の10μg/日を生成するのに必要な日照時間は、概して夏は日陰を含めて30分程度、冬は地域差が大きく1時間程度が推奨される。さらにまた、最近では欧州20カ国におけるビタミンD濃度と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染者・死亡者数との関連が報告されるなど、ビタミンD濃度が高い国ほどCOVID-19の罹患率、死亡率が低い負の相関が示唆された。このほか、血清ビタミンD濃度と糖尿病などの生活習慣病や認知症などとの関連性についても一部で示唆されてきており、ビタミンDが筋骨連関をはじめとした多面的作用を有する可能性も考えられてきている。
今後、健康寿命の延伸に向けたビタミンDの多面的作用のさらなる解明とその臨床応用が期待される。
小川純人(東京大学大学院医学系研究科老年病学准教授)[多面的作用][健康寿命延伸]
過去記事の閲覧には有料会員登録(定期購読申し込み)が必要です。
Webコンテンツサービスについて
過去記事はログインした状態でないとご利用いただけません ➡ ログイン画面へ
有料会員として定期購読したい➡ 定期購読申し込み画面へ
本コンテンツ以外のWebコンテンツや電子書籍を知りたい ➡ コンテンツ一覧へ