職場で上司や同僚、他専門職等に質問や相談等をしたいときに「そんなことも知らないの?」等のような不安から、質問や相談等を躊躇したり、強く叱責されることを恐れてしまい、ミスがあっても報告することができず、後から大きなトラブルになってしまったことはないでしょうか。
そこで今回は、自分の考えや気持ちを安心して発信できる状態をつくり、職場内での情報交換が活発になったり、業務改善の推進に役立つ概念を持つ、近年の組織マネジメントの世界で注目を集めている「心理的安全性」について紹介します。
「心理的安全性」とは、組織行動学を研究するエイミー・エドモンソン教授が1999年に提唱した心理学の概念です。「組織のなかで、誰に対しても自分の考えや気持ちを安心して発言できる状態」のことを指し、自分の発言に対して他のメンバーが拒絶的な反応をしたり、罰したりしないと確信できる状態であれば、心理的安全性が高いとされます。2015年にGoogleが「生産性が高いチームは心理的安全性が高い」との研究結果を発表したことをきっかけに注目を集めています。
石井(2020)は、日本版「チームの心理的安全性」として4つの因子を述べています。①話しやすさ「『問題』や『リスク』に気づいた瞬間・感じた時に声をあげられるチームである」等、②助け合い「問題が起きた時、人を責めるのではなく、建設的に解決策を考える雰囲気がある」等、③挑戦「挑戦することが損ではなく、得なことだと思える」等、④新規歓迎「役割に応じて、強みや個性を発揮することが歓迎されている」等。
ソーシャルワーカーの教育・スーパービジョンの領域においても、このような概念は非常に重要な要素としてとらえています。教育・スーパービジョンを受けるということは、自分の知識・技術の不足や未熟さを露呈するといった不安や拒否といった感情を抱くことがあります。上司・スーパーバイザーは、部下・スーパーバイジーが自分自身の弱みや課題など困難に感じている問題を、安心して提示できるような場の提供や、関係性への配慮が必要になります。心理的安全性の向上により、一人ひとりの個性や価値観が受け入れられる環境が整えば、今までになかったような新しいアイデアが生まれ創造しやすくなります。また業務上のミス等の報告に対するハードルも低くなるため、重大な問題の発生を未然に防ぎやすくなるといった効果にも繋がります。そのような心理的安全性が高い職場であれば、組織内職員の学習へのモチベーションも向上することができ、組織全体で学び成長し続ける職場環境に育つでしょう。
【参考】
▶エイミー・C・エドモンドソン:恐れのない組織─「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす. 英治出版, 2021.
▶石井遼介:心理的安全性のつくりかた─「心理的柔軟性」が困難を乗り越えるチームに変える. 日本能率協会マネジメントセンター, 2020.
▶福山和女, 他:保健・医療・福祉専門職のためのスーパービジョン─支援の質を高める手法と理論と実際. ミネルヴァ書房, 2018.
▶エイミー・C・エドモンドソン:チームが機能するとはどういうことか─「学習力」と「実行力」を高める実践アプローチ. 英治出版, 2014.
岡江晃児(杵築市医療介護連携課兼杵築市立山香病院・ソーシャルワーカー)[心理的安全性][教育]
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