私はSNSに期待大だった。Twitterは最新の医学情報を迅速に提供しており、それは学術集会や医学誌よりも早かった。情報量が指数関数的に膨張する医学領域において、Twitterの活用こそが学術面での最適解だと思っていた。
しかし、トランプ第二次政権と、その側近? たるイーロン・マスクの跳梁によって、私の期待は木っ端微塵に裏切られた。もはや、私はTwitterに大きな期待は持っていない。もちろん、マスクに阿ってXなどと呼ぶつもりもない。
Twitterはアルゴリズムの度重なる変更により、政治的に偏向した情報を優先的に流すようになった。その投稿はモニターされ、トランプ政権に反対意見を述べたりすれば米国入国を断られかねない、ディストピア状態だ。正直、このような状況下で米国の学会に参加する気持ちにはなれない。主戦場は欧州その他になりそうだ。
トランプ政権に諂うのはマスクだけではない。マーク・ザッカーバーグもファクトチェックを中止してしまった。既に高齢者の自慢話と説教掲示板に堕ちていたFacebookでも、デマや陰謀論が跋扈するようになった。Instagramも、人々の承認欲求を満足させる以上の存在ではなくなっている。GoogleやYouTubeのアルファベット社もトランプ寄りになっている。YouTubeはデマや陰謀論の発信サイトになっており、類似の動画が次々と流れる形式のために特に陰謀論にハマりやすい構造になっている。中国のTikTokが高リスクなのは周知の通りだ。
Twitter上では過激な極論と、その極論を全否定するこれまた極論による不毛な論争があちこちで起きている。誠実な投稿も揶揄や誹謗中傷で汚されることが多い。デマを流す真正の嘘つきは自分が嘘をついている自覚もなく、こういう「無敵の人」とは議論するだけ時間の無駄だ。そんな「無敵の人」に信者や取り巻きがつくとさらに悪質で、デマはさらに拡散される。コロナのときはそれでも社会のためにと情報発信したりもしたが、正直リスクのほうが大きすぎる。
もちろんSNSにもまだメリットはある。YouTubeは著作権の切れた古い名画を鑑賞するには便利なツールだ。Twitterは自分の出した論文を紹介したり、最新の学会発表をチェックするにはまだ便利だ。しかし、デメリットのほうがはるかに大きい。
だが、SNSは既に「ソーシャル」ではない。SNSは醜い存在で、その将来はさらに悪くなる予感しかない。近づかないのが賢明である。
岩田健太郎(神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)[SNS][誹謗中傷][デメリット]
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