「国立大学病院は親方日の丸で経営がいい加減」「国立は税金で賄っているから患者を断るのはけしからん」等々、よく聞くご意見です。本当でしょうか?
2019年度の千葉大学病院の当初予算では、総収入は378億5700万円、そのうち医業収入は348億8000万円であり、国からの補助金である運営費交付金は25億8600万円、率にして総収入の6.8%に過ぎません。しかも運営費交付金は機能強化促進係数と称して毎年1.6%(約4000万円)ずつ減らされており、さらなる減額圧力に晒されています。ちなみに単純な比較は困難ですが、千葉県立の6病院では、総収入446億円のうち医業外収入、つまり税金投入は135億円(30%!)です。
大学病院には診療の他に、教育、研究という重要な使命があります。個別の研究プロジェクトには日本医療研究開発機構(AMED)などからの研究資金が入り、その一部は間接経費として病院の収入となりますが、研究のためのインフラづくりを賄うにはとても足りません。教育に関してはほぼ皆無です。
また診療報酬上の優遇処置は、DPC制度における「大学病院本院群」として係数の上乗せ分だけです。高難度症例を集中的に扱うために薬剤費や医療材料費の高騰は著しく、医療費率はすでに42%を超え、もはや制御不能の状況に至っています。さらに入札という国立ならではの制度のため、業者との個別交渉は難しく、価格の高止まりを引き起こしています。
千葉大学病院では現在、今秋の竣工を目指して中央診療棟建設を進めていますが、総工費200億円のうち国からの補助金はわずか10%、残りは30年ローンの借入です。借金返済額は、現在は年17億円ですが、7年後には27億円に増えます。純利益が単純に10億増えなければ返済は困難になる計算です。
一方で経営努力は確実に進めており、千葉大学病院における新入院患者は過去5年間(2014年から2019年)で1万7000人から2万人に17%増加、在院日数は15日から12日に短縮、医業収入は300億から360億へと20%増えています。
このように国立大学病院は必死の経営努力により高機能な医療提供体制を維持していますが、その裏には限りなくブラックな働き方をしている大勢の若手医師がおり、また研究実績の凋落というわが国の未来に暗い影を投げかける大きな代償も伴っています。
山本修一(千葉大学副学長、前医学部附属病院長)[大学病院]
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