No.5048の本欄でも紹介させていただいたが、日本糖尿病学会の糖尿病の治療目標が、2020年より「健康な人と変わらない人生」となった。糖尿病合併症の発症を防ぎ、健康な人と変わらない寿命を確保し、認知症、サルコペニア、フレイル、がんの発症予防、そしていわれのない偏見差別といったスティグマをなくし患者さんを守るアドボカシー活動が加わった。はたして私ができているかと問われると自信がない。WHO憲章には「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること」(日本WHO協会訳)とある。はたして「患者さんのすべてが満たされた状態」にどれほどできているのか自信がない。
肉体的well-beingに関して、糖尿病患者(だけではない)の死因の1位はがんであるが、先日、大阪市内の500床以上の6病院の糖尿病専門医13名へのアンケートがあった。がんに関しては「健診にゆだねる」が5名、「入院の機会にスクリーニングをする」が5名、「入院外来を問わずにスクリーニングを行う」が2名であった。このように糖尿病専門医の間でもバラバラである。保険診療からいうと正解は日頃から健診を受けてもらい、異常があれば地域のかかりつけの先生から専門家へ紹介していただくことだと思う。しかし、糖尿病患者さんはがんの発症率が高いことも事実である。疑われる併発症を検査することは病院勤務の糖尿病専門医の役目と私は考えている。6〜12カ月ごとに脂肪肝のフォローのため腹部エコーなどの画像検査や透析予防指導などを病院が行い、かかりつけの先生では症状の変化をとらえて紹介いただくといったwin-winの関係が重要と考える。
精神的、社会的にもwell-beingでいていただくためには、その方の生活、人生観を知ることが必要である。さらには、人生会議(advance care planning:ACP)も必要になってくる。2人主治医制で病院と診療所、コメディカルとともに患者さんをサポートする体制、エンドオブライフケアの体制がなければ、「健康な人と変わらない人生」は達成不可能ではないかと考えている。今後の糖尿病専門医には益々チーム力が要求される。
細井雅之(大阪市立総合医療センター糖尿病内分泌センター糖尿病内科部長)[地域連携]
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