先日ドイツから訪問した友人に久しぶりに会う機会があった。当然のごとく、話題が新型コロナウイルスに関するものになった。EU諸国でもワクチン接種が思うように進んでいないようであるが、日本と比較すれば接種人数はけた外れに多く、既にドイツでは人口8302万人のうちの684万人が接種している。そこで「もう接種を受けたのか」とお聞きしたところ、「知ってますか。ドイツではワクチンを受けた人が何千人も死んでいて、政府がそれを隠しているんです。だから受けたくありません」との返事が来た。それが本当に事実であればとてもショッキングなことだとその場では思ったが、ここで冷静になって考えてみた。人口統計を見てみると、前述のようにドイツの総人口は8302万人で、年間の総死亡率は1.13%なので、年間9万3813人。1日当たりに直すと2570人が何らかの疾患や事故で死亡している。一方、接種を受けたのは684万人。つまり人口の8.24%である。受けても受けなくても死亡率は変わらないと仮定して計算すると、接種を受けた人は1日当たり212人死亡することとなる。したがって、例えば10日間ワクチンを受けた人の死亡者数を足せば2000人を超えてしまい、「何千人も死んでいる」という数字が出てくる。
読者の皆さんは、ワクチンの有害反応を論ずるのであれば、ワクチン接種の有無で死亡率に差があることを証明すべきと即座にお分かりになると思うが、数字だけを報道するとこのようになってしまう。これから日本でも接種が進むと思うが、接種人数が増えれば増えるほど、当然接種後に死亡する人数も増える。日本では高齢者に優先的に接種するので、かなり接種後の死亡数が出ると予測される。過去の日本でも接種を受けた医療従事者の1人がくも膜下出血を発症したと報道されたが、その数字だけを知らせるのは客観的データの示し方ではない(ちなみに人口統計上は1日当たり約6.6人がくも膜下出血を発症)。日本では、現在約3700人が1日当たりの死亡者数である。もし近い将来、「ワクチンを受けた人の○○人が死んでいます」といった報道がされ、接種に対する不安を口にした患者さんがいたら、この数字を示して説明していただきたいと思っている。
杉浦敏之(杉浦医院理事長)[新型コロナウイルス感染症]
過去記事の閲覧には有料会員登録(定期購読申し込み)が必要です。
Webコンテンツサービスについて
過去記事はログインした状態でないとご利用いただけません ➡ ログイン画面へ
有料会員として定期購読したい➡ 定期購読申し込み画面へ
本コンテンツ以外のWebコンテンツや電子書籍を知りたい ➡ コンテンツ一覧へ