薬価について1年間グチをこぼしてきましたが、私は製薬会社が嫌いなわけではなく「新しくても古くても、コスパを含めて冷静に判断して使うべき」と言いたいだけなのです(意外?)。そして、製薬会社も「儲かること」だけを考えているわけではありません。今回が最終回ということで、そういった製薬会社に謝意を示したいと思います。
2011年3月、東日本大震災が起こりました。その時、レボチロキシンナトリウムの国内シェア98%を誇っていたチラーヂンⓇSを製造する“あすか製薬”の工場が被災し、供給が不安定になったことは忘れられません。このシェア率を見ると「この製薬会社は独占だ! 許せん!」と思ってしまうかもしれませんが、あすか製薬が悪いわけではないのです。チラーヂンⓇSは薬価が異様に安く、売っても大した利益が出ません。“うまみ”がないので、他社は参入しないのです(後発品の販売はサンド製薬のみ)。なくてはならない大切な、でも利益が薄い薬剤をつくり続けてくれていること、そして震災時は供給に尽力してくれたことに、医療者として感謝しています。
ちなみに、あすか製薬は「チラーヂンⓇS静注液200μg」を2020年6月に販売開始しましたが、その薬価はなんと約2万円! しかし、人道的な立場でこれまでチラーヂンⓇSを製造・供給し続けてくれたことを思うと「ええよ」と言ってあげたくなります。
抗菌薬のセファゾリンナトリウムは、日医工のシェアが60%を誇ります。その原料が外国頼みであり、その供給が滞ったため一時的に製造できなくなったのは記憶に新しいでしょう。セファゾリンは製造コストのほうが薬価よりも高かったという摩訶不思議な状況の中、日医工が主につくってくれていました。これも拝みたくなりますね。2020年4月の改定で薬価が引き上げられたので、少しほっとしています。
本当に必要な薬剤については、製薬会社にそれなりの利益をもたらすように国が配慮すべきだと思います。しかし、医療費が増大していく一方のこの国でどこまでそれができるのか。セファゾリンの薬価引き上げと同じことが、他の必須薬剤でもどんどん起きてくれればとてもありがたいのですが…。
*あすか製薬と日医工に対して利益相反は一切ありません*
宮内倫也(可知記念病院)[薬価]
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