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頼藤貴志

登録日:
2023-02-09
最終更新日:
2023-02-13

「国民的なコンセンサスを形成してこそコロナとの真の共存が可能に」

新型コロナウイルス感染症に関する緊急事態が国内で初めて宣言された2020年4月7日から間もなく3年になろうとしている。私たちは、これまでに多くの知見を得てきた。①季節性インフルエンザとは違い、反復する流行を引き起こす。②オミクロン株では重症化率は低下したが、多くの患者数が発生したため、2022年1年間で約4万人近い死亡者が発生した。③呼吸器以外の器官・臓器にも多彩な病態を惹起し、倦怠感などの罹患後症状も引き起こす。④伝播性の高さから、医療機関や高齢者施設クラスターが常時発生する。⑤流行の度に、現場への負荷増加と医療従事者の離脱が起き、新型コロナ診療だけでなく通常医療のひっ迫も引き起こす。

現在もこのような状況は変わらないが、社会としては新型コロナとのさらなる共存を選択し、5月8日から新型コロナ感染症を感染症法上の5類感染症に位置づけることが決定された。これまでも、疫学調査の簡素化、全数届の見直しなど感染症法上の対応を緩和してきており、分類を変更したとしても、医療費の公費負担など経過措置が適用されると予想され、実質的には段階的な移行と思われる。しかしながら、いずれにしても、感染症の分類は、人間側が決めた法律上の括りであり、ウイルス自体が変化するわけではなく、様々な課題が生じてくると思われる。

まずは、入院措置・勧告や外出自粛要請などが適用されないことによる、感染機会の増加である。一般社会だけではなく、高齢者など重症化リスクの高い方が多い病院や施設での感染機会も増すこととなり、病院や施設でのクラスターが常時発生する事態が推察される。次に、保健所や行政が担ってきた、新型コロナ診療のための病床確保や発熱外来及び入院の調整が簡略化されるであろうことから、新型コロナ診療のための医療提供体制維持が難しくなる危険性がある。そして、特に問題だと思われるのは、今後も流行を繰り返せば、その度に、新型コロナ診療だけでなく、救急医療や手術といった通常医療も含めた医療ひっ迫が発生し、そのしわ寄せは国民が受けることになることである。

5類感染症への移行は、国民に新型コロナからの解放という印象を与えるであろう。しかしながら、それは同時に上記課題と対面しなければならないという国民の覚悟も試されている。行政や医療、そして国民が対話をし、国民的コンセンサスを形成してからこそ、真の共存が可能になると思われる。

頼藤貴志(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科疫学・衛生学分野教授)[新型コロナウイルス感染症]

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