新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の主な感染経路が空気媒介感染であり、季節性コロナを含むウイルス性上気道炎における鼻洗浄(鼻うがい)の有効性を示すエビデンスが既にあることから、我々日本病巣疾患研究会は昨年春よりCOVID-19対策として鼻うがいの啓発活動を実施している(No.5009本欄で報告)。また今年は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のレセプターであるACE2が鼻腔粘膜の繊毛上皮細胞に豊富に存在して、感染の初期段階におけるウイルス複製に重要な役割を果たすことが報告され、COVID-19対策としての鼻うがいの可能性を理論的に示唆するものと思われた。
そして、この度、発症早期の段階での鼻うがいの導入がその後の入院や死亡を1/8以下に減少させることが8月25日付けのメドアーカイブ(medRxiv)より報告された1)。本研究は米国Augusta大学病院の周辺地域に住む55歳以上のCOVID-19患者79名が診断直後より2回/日×14日間の生食鼻うがいを実施し、診断後28日間における入院率と死亡率を、背景をマッチさせた同時期の米国疾病予防管理センター(CDC)登録患者約300万人と比較検討する前向きコホート研究である。結果はCDC登録患者では入院または死亡の割合が10.6%であったのに対し、鼻うがい実施例では入院が1名(1.27%)のみで死亡はゼロであった。
本研究の規模は小さいが、この結果は、臨床試験で重症化リスクが7割減ったとされ、今年7月に特例承認された、軽症の段階から使用が認められている抗体カクテル療法と比べても数字的には遜色がない。COVID-19の重症化を防ぐという点で、初期段階における安価な鼻うがいの介入については今後検討する価値があり、現状では特に自宅療養となるような患者に有用と思われる。
また、イスラエルの3万人規模の後ろ向きコホート研究により、デルタ変異株以前のSARS-CoV-2既感染によって得られた自然免疫がmRNAワクチン2回接種で獲得した免疫に比し、デルタ変異株による感染、重症化、入院に対して、より長期的で強力な防御を与えることを示すreal-world evidenceが8月26日付のmedRxivより報告された。
世界的にwith コロナ時代となった現状において「自然感染による免疫の獲得」という視点からも鼻うがいによるCOVID-19の軽症化は意義があると思われる。ワクチンの入手が容易でない貧困国においては勿論であるが、副反応に対する懸念などの理由でmRNAワクチン接種を躊躇している人々にとっても朗報の一つになるかも知れない。
【文献】
1)Baxter AL,et al:medRxiv. [https://doi.org/10.1101/2021.08.16.21262044]
堀田 修(認定NPO法人日本病巣疾患研究会理事長)[新型コロナウイルス感染症]
過去記事の閲覧には有料会員登録(定期購読申し込み)が必要です。
Webコンテンツサービスについて
過去記事はログインした状態でないとご利用いただけません ➡ ログイン画面へ
有料会員として定期購読したい➡ 定期購読申し込み画面へ
本コンテンツ以外のWebコンテンツや電子書籍を知りたい ➡ コンテンツ一覧へ