最近、医療法人のM&A(第三者事業承継)に関わることが多いのですが、やはり、買い手側としては「持分あり法人」を希望される方が多いように感じます。現状では持分ありの法人を設立できないこともあって、プレミアム感のある「持分あり法人」ですが、実は「離婚によるリスク」という思わぬ落とし穴があります。今日はそんなちょっと怖いお話をしようと思います。
ある先生が、結婚後、1000万円を出資して設立した持分ありの医療法人。経営も軌道に乗り、時価総額は2億円に到達。しかし、とある事件をきっかけに配偶者と離婚の話になってしまいます。離婚も仕方がないと思ったのも束の間、配偶者の代理人弁護士から「財産分与として1億円を請求する」という文書が届き、驚愕します。慌てて顧問弁護士に相談しますが、顧問弁護士の回答は「医療法人の持分も財産分与の対象なので、原則として、時価の半分を奥様に渡す必要がある」というものでした。方々からお金を工面し、なんとか支払うことはできました。
今のお話はあくまでフィクションですが、現実に起こりうるものです。離婚する場合、お互いの財産を分ける「財産分与」が必要になります。対象になるのは結婚後にできた財産なのですが、現預金や不動産、有価証券だけではなく、医療法人の出資持分も対象になります。また、財産分与は慰謝料とは違い、「離婚の原因を作ったのはどちらか」といった事情とはまったく関係がありません。あくまで、財産分与は「夫婦が共同で築いた財産を分ける」ことが原則になります。医療法人のケースではありませんが、アマゾン社の創業者ジェフ・ベゾス氏が離婚の際、財産分与として同社の株式約3兆9000億円分を、元妻に譲渡することになったというニュースをご記憶の方もいるかもしれません。
もちろん、出資持分をどうやって金銭評価するのかといった点や、医療法人の出資持分については、他の財産と違い、医師と非医師では財産を形成した寄与分に違いがあり、単純に半分にすべきでないという論点もあります。したがって、単純に時価総額を半分にすればよいというわけでもありません。
ただ、いずれにしても、結婚後に設立したり、譲渡を受けた医療法人の持分は、財産分与の対象になります。その点のリスクは十分に理解しておく必要があるでしょう。可能であれば、こっそり弁護士に相談してください。
川﨑 翔(よつば総合法律事務所東京事務所所長・弁護士)[クリニック経営と法務]
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