いわゆる「ドラッグ・ラグ」の問題については成人のがん領域のみならず、小児がんの領域においても長らく問題とされてきたが、医薬産業政策研究所「政策研ニュースNo.69」によると、日米の小児がん適応取得数の累積品目について、日米間の累積品目数の差が2016年では3品目のみであったのに対し、22年では24品目と拡大し、小児がんにおけるドラッグ・ラグが急増していることが示唆されている。
この背景として、米国では03年に「Pediatric Research Equity Act(小児用薬研究公平法)」が成立し、成人対象の第Ⅱ相試験終了までに小児の試験計画(pediatric study plan:PSP)の提出が義務づけられていたところ、17年には「Research to Accelerate Cures and Equity for Children Act(RACE法、小児の治療法と公平化促進のための研究に関する法律)」が成立し、小児がんの治療可能性のある分子標的薬にもPSPの提出が必要となったことにより、日米間の格差が更に拡大した可能性が指摘されている。
全国がん患者団体連合会は、22年9月に厚生労働省に提出した「第4期がん対策推進基本計画に関する要望書」の中で「海外では成人の新規医薬品の開発・臨床試験と並行して、小児の開発を行うことを義務づける法制度があることから、厚生労働省は、小児がんにおけるドラッグ・ラグの解消に向けた必要な法制度を検討すること」を要望し、10月には小児がん患者会ネットワークが「小児がん治療薬剤の開発促進および、ドラッグ・ラグの解決を求める患者・家族からの要望書」を自見はなこ内閣府大臣政務官に手交した。
厚生労働科学特別研究事業「小児がん及び小児稀少難治性疾患に係る医薬品開発の推進制度に資する調査研究」(研究代表者:鹿野真弓東京理科大学薬学部教授)では、欧米の制度に関する調査や製薬企業へのアンケート結果などをふまえ、小児用医薬品開発コストに見合う製薬企業の収益を確保可能な制度の整備や、欧米当局との同時開発・同時申請を視野に入れた共同相談・共同審査の検討などを提案している。
この提案をふまえ、23年7月に開催された「創薬力の強化・安定供給の確保等のための薬事規制のあり方に関する検討会」で厚労省は、「新有効成分、新効能の医薬品については、成人用の開発時に、企業判断で小児用の開発計画を策定し、PMDAが確認する仕組みを導入すること」「開発優先度や小児の治験実施の要否に関する考え方の明確化」「小児剤形の利用促進策」などを提案しており、今後の具体的な制度や施策の検討と展開が期待される。
天野慎介(一般社団法人全国がん患者団体連合会理事長)[小児試験計画][第4期がん対策推進基本計画]
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