アカデミアの住人にとって、学術論文の作成は修行であり、メシのタネである。博士号を取るために英語で論文を数本書くのは、当然の通過儀礼。世界のアカデミアは、英語帝国の属国状態にある。しかし、日本人にとって英語の壁は高い。これまでは何万円(時に何十万円)も払って、英文添削会社に頼るのが常だった。
が、近年登場したAIやDeepL、ChatGPTを使えば、どんなにテキトーな日本語でも、瞬く間にほぼ完全な英語に仕立ててくれる。
英語の添削だけでなく、ChatGPTは論文作成のあらゆる場面で役立つ。たとえば統計解析。Excelのデータを放り込み、変数名を指定して、「このデータに最適な回帰分析モデルは? RとStataのコードも教えて」と打ち込めば、恐ろしく分厚いマニュアルを開くまでもなく、解析プログラムを提示してくれる。もはや人間は、統計学の入門書を読む手間すら不要になった。
学生のトレーニング、論文の抄読会でも威力を発揮する。論文をpdfで読み込ませれば、わずか数秒でお好みの長さの日本語要約を返してくれる。それが今の学生たちにとっての常識。昭和の時代、半べそをかきながら、意味がわからぬ英語の論文を何日もかけて読んだのに、研究室の先輩から「お前、ちゃんと準備したのか?」ときつく叱責された経験がある世代からすると、もはや異次元別世界。
口には出さないが、大学教員の多くが、学生の論文指導と投稿論文の査読にChatGPTを使っているはず(でしょ?)。私も(ルールの範囲内で)試しに査読をやらせてみたが、その力量は凄まじい。内容の要約だけでなく、文法や「てにをは」の間違いを完璧に見つける。最もすごいのは「この論文の問題点を3つ挙げて」と指示すれば、それらしい問題点を、依頼した個数だけ見つけてくれること。さらに、「これらの指摘に著者はこう回答すればよいですよ」とまで提案してくるのだから、「これは人類を超えたな」と言わざるをえない。
書店には「ChatGPTで論文を書く」類のマニュアル本が並び、研究者はChatGPTに論文を書いてもらっている。投稿された論文はChatGPTで査読され、再びChatGPTが改訂版を書く。もはや安っぽいコントでしかないアカデミアの現実。これは、その昔誰もが夢見たユートピア? それともサル的な人類の成れの果てのディストピア?
で、先生方、そろそろ気づいてますよね。「……もしや、こいつ、締め切りが過ぎてるのにネタが思い浮かばず、この原稿をChatGPTに書かせてるんじゃないか?」と。
てへ。判断は読者にお任せします。あ、編集のOさん、原稿料はちゃんと人間の僕が頂きますのでよろしく。
小野俊介(東京大学大学院薬学系研究科医薬品評価科学准教授)[ChatGPT][論文]
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