わが国は20年後には毎年160万人以上が亡くなる多死社会に突入する。21世紀前半の日本のプライマリヘルスケア上の最大の課題は、多死社会とそれに伴う緩和ケアニーズの急速な拡大への対応であろう。
2012年にヨーロッパ緩和ケア協会は、「人権としての緩和ケア(palliative care human right)」(プラハ憲章)を宣言した。この中では、すべての人は終末期に適切な緩和ケアを受ける権利があり、政府は全ての人が緩和ケアにアクセスできるようにする義務があると述べている。具体的には、緩和ケアを医療制度のあらゆるレベルに組み入れ、緩和ケアに必要な医薬品の確実な提供を促進し、医療従事者への教育・研修を充実させるなど終末期患者のニーズに応える医療政策を策定し、実行する義務である。
「Global Atlas of Palliative care at the End of Life」(2014年;世界保健機関/世界緩和ケア同盟)によると、先進国においては、緩和ケアは亡くなる人の60%以上に必要と推測され、その3人に1人ががんであるが、3人に2人は認知症や心不全、COPDなどの呼吸器疾患、神経難病、腎不全などがん以外の疾患である。そして、世界的に緩和ケアは、それを必要とする人の10人に1人しか届いていないという。日本人の男性の死亡のピークは87歳、女性は92歳となり、わが国では高齢非がん患者の緩和ケアが最大の課題となっているが、その実践・教育・研究はあまりに乏しい。
多死社会を迎える20年後の日本では、160万人の60%、つまり年間100万人に緩和ケアが滞りなく提供できる体制を構築しなくてはいけない。今後わが国の緩和ケアの主な対象は、認知症を主病名とし、心不全や嚥下障害を持ち、肺炎などが引き金となる90歳前後の高齢非がん疾患患者であり、緩和ケアが提供される場は、緩和ケア病棟ではなく、在宅や施設、そして一般病床や療養病床が中心となる。
緩和ケアを特別なケアではなく、普遍的で基本的なケアとして、あらゆる医療現場に浸透させるために、非がん疾患の緩和ケアに関する研究や教育・研修、そして政策を推進しなくてはならない。
平原 佐斗司(東京ふれあい医療生活協同組合研修研究センター長)[緩和ケア][多死社会]
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