国を挙げて推進されてきた医療DXは、当初こそ進展が緩やかであったものの、オンライン資格確認、マイナンバーカードの健康保険証利用、電子処方箋の導入が始まり、さらに医療DX推進体制整備加算の後押しもあって、ようやく医療現場にも普及しはじめている。当院においても、ベンダー対応の遅れやスタッフ教育などに課題を抱えつつも、段階的に整備を進めているところである。
こうした動きに加え、2025年度からはいよいよ「電子カルテ情報共有サービス」の運用が開始される。本サービスは、患者さんの保健・医療・介護情報を医療機関や自治体、介護事業者などで共有できるシステムである全国医療情報プラットフォームの仕組みの1つとして位置づけられている。全国の医療機関や薬局などで、患者の電子カルテ情報を共有可能にする。
当該サービスで提供される情報は、「3文書6情報」と総称され、以下の内容を含む。
3文書:健康診断結果報告書、診療情報提供書、退院時サマリー
6情報:傷病名、感染症、薬剤禁忌(アレルギー)、その他のアレルギー、検査結果、処方情報
モデル事業は既に開始されているが、本格的な運用開始は2025年9月を予定し、一般の医療機関への普及はそれ以降となる見込みである。これまでも、診療情報提供書や画像データを電子的に共有する取り組みは、一部の先進的な医療機関や地域において実施されてきた。また、在宅医療・介護の分野では、医療・介護情報を多職種間で電子的に共有する仕組みが一般化しつつあった。今回の全国的なシステム導入により、長年の課題であった医療現場における情報共有が、一気に進展することが期待される。
もっとも、新たなシステムの導入にあたっては、現場に一定の混乱が生じることも想定される。サービスの導入のみならず、その後の維持・運用管理が求められることは、既に多忙をきわめる医療現場にとって相当の負担となりうる。また、患者側にも十分な理解と、必要に応じた技術的支援が求められることになるだろう。さらに、情報共有には患者本人の同意取得が前提となっているものの、個人情報保護に関する懸念を完全に払拭することは難しい。したがって、本格的な運用に先立ち、テスト運用期間中に可能な限りの課題を抽出し、事前に対処しておくことが不可欠である。
とりわけ、入退院や転院といった短期間でサービス提供者が変化するケア移行の場面、あるいは複数の提供者が関与することの多い高齢者医療においては、円滑な情報共有がきわめて重要であることは言うまでもない。本サービスの導入によって、わが国における機能的かつ安全な情報共有体制が構築されることを強く期待したい。
松村真司(松村医院院長)[医療DX][電子カルテ情報共有サービス]
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