医師が地域活動を行う上で大切なことは、自分自身がどのようなあり方で地域と関わるのかということだ。医師として関わるのか、地域住民として関わるのか。その関わり方において、医師はどんな姿勢が求められるのだろうか? 私たちコミドクの研修では、地域にはいる心得として「健康おせっかい」について学んでいる。「健康おせっかい」とは、コミュニティナースの普及活動を行っている株式会社CNCが提唱したものであり、「隣人のニーズや願いを感じ取り、一歩踏み出して、毎日のうれしいや楽しいを一緒につくっていくこと」とされている。
「健康おせっかい」は、「関係をきずく」「つぶやきをひろう」「まずはやってみる」「共通の物語にする」「健康のイメージを広く持つ」という5つの要素にわけられる。研修ではそれぞれにまちでコミュニティナースとして活動を行う方々の実践を通して振り返り、学びを深めていく。たとえば、地域活動では地域で慕われるキーパーソンと出会うことが肝要であるが、そのためにはまず自分の人間性を見せる必要があること。人が本当にやりたいことを探るときには、言葉にならないつぶやきを拾うことが重要で、そのために表情の変化や感情の機微を感じ取ることが大切なこと。今できることを、小さなおせっかいでもよいのでまずやってみること。そしてその場ですぐに感想を伝え合い、振り返りを重ねていくこと。
この研修には、医師が日々の臨床では忘れがちな、しかし重要な視点が多く含まれている。私たち医師としての信頼や実績は、特定の領域の専門性を通して表現されることが多い。一方で、地域活動で大切なのは「あなた自身がどんな人間なのか」ということだ。また、医師は臨床でまずやってみるよりも綿密に評価し計画を立てることが多いが、小さく実践し成功体験として振り返りを行うことは、以前紹介した地域医療のAARサイクルそのもので、臨床との姿勢の違いを意識させられる。
研修で語られる、株式会社CNCの矢田明子氏の「健康おせっかいにエビデンスがあるかはわからないこともまだあるが、目の前に笑顔が生まれている現場を実際に目にしている」という言葉は印象的だ。健康の定義には様々なものがあるが、人がつながり、笑顔になることを1つの健康のバロメーターと考える。また、おせっかいは他者に人のつながりを生むだけでなく、おせっかいをする人も新たに人とつながる契機にもなるのだ。
孤立は健康のリスクになると知られ、社会的処方も注目を集めるようになった。孤独・孤立対策推進法が2024年4月1日に施行され、医療の立場でも、かかりつけ医やリンクワーカーの存在がつながりの架け橋としての役割を期待されるようになっている。健康を病気の有無だけではなく、人同士のつながりや人が笑顔であることだととらえたとき、健康に関わる医師である私たちもおせっかいマインドを持って、地域に一歩踏み出してみてはどうだろうか。
坂井雄貴(ほっちのロッヂの診療所院長)[地域医療][コミュニティドクター][コミュニティナース][健康おせっかい]
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