株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

草場鉄周

登録日:
2022-07-28
最終更新日:
2025-03-26
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  • 「診療報酬制度と経済と経営」

    筆者は主として診療所がグループとなって構成される医療法人の経営を担っているが、ここ半年ぐらい、病院団体を中心に経営の厳しさを世に訴える叫びをメディアで目にすることが増えてきた。実際、関係している病院の内情を耳にする中でも、いわゆる「増収減益」という現象が生じており、経営の舵取りが大変厳しいと聞く。その結果、診療報酬の期中改定、つまり2年に1度ではなく、毎年の改定で報酬を増額するようにとの主張もあちこちで目にする。

    その一方で、とある企業経営者と話す機会があり、こうした医療業界の話を伝えたところ、収入増加と費用節減に向けての取り組みがまだまだ甘いのではないかという厳しいコメントを頂いた。いわゆるバブル後の失われた30年間を生きのびた民間企業は、経済停滞で収入が増えない中で、細かな収入増と聖域なき費用節減を繰り返し、ようやく長いトンネルを抜け出してきた。その時期に、税金と保険で安定した収入を得てきた医療機関はぬるま湯体質になっているのではという厳しい指摘であった。特に、コロナ禍での感染対策でつぎ込まれた資金がカミカゼ的な救済策となってしまい、本来の危機的状況を見えなくさせたのではないかと。それも一理あるなと、うなずける点もないわけではない。

    ただ、医療機関と一般企業は収入と費用の構造があまりに異なっている。日本の医療機関は大多数が民間であるにもかかわらず、収入については保険診療の中で政府が定める診療報酬制度で認められた収入を得るしか手段はなく、人員配置なども細かく規定されているケースが多い。このように、診療報酬制度によって経営の幅を規定するという仕組みが日本の医療政策のポイントであり、収入増も経費削減も、ある意味制度で縛られているわけである。勝手に人を減らしたり、値段を上げることは許されない。

    たとえば、大都市でもへき地でも患者あたりの収入は変わらないわけで、人口が減少すると経営が困難になるのは火を見るより明らかである。また、物価が上がって経費が増え、賃金が増えて人件費が上昇する現象も地域によって差があるが、そうした点を考慮することもできない。社会環境や経済状況の変化に弾力的に対応する仕組みそのものが診療報酬制度に組み込みようがない状況で、はたしてこの制度は持続可能なのだろうかと疑問を感じることが最近増えてきた。

    そろそろ医療提供体制と診療報酬制度のあるべき姿をデザインして、現実をふまえたシステム構築への真剣な議論を展開する時期がやって来たのではないだろうか。

    草場鉄周(日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)[総合診療/家庭医療

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