2025年7月19日に開催された『第11回 地域包括ケア推進病棟研究大会』において、大会長を務めさせて頂いた。私自身の法人では、診療所しか運営していないのだが、医師を派遣している帯広協会病院総合診療科が、かつて地域包括ケア病棟を担当していた縁もあり、総合診療医の活躍の場としての地域包括ケア病棟を応援したいということで本協会の理事を担っている。その流れでの大会主催である。
大会では『地域包括ケアを支える人材育成を目指して』というテーマで、様々な企画を用意したが、その中でも目玉は『地域包括ケアを支える多職種連携と教育』と銘打ったシンポジウムだった。医師、看護師、薬剤師、リハセラピストの4名のシンポジストをおまねきして、それぞれの立場で多職種連携の実践経験や大切なポイントを語って頂くとともに、多職種連携を実現するための教育について貴重な意見を頂いた。
その中でも印象的だったのは、千葉大学大学院高度実践看護学講座教授の酒井郁子先生の講演で、多職種連携を阻害する要因の中で「医師の呪い」という言葉がすっと目に飛び込んできた。「医師の呪い」とは、多職種連携を実施する上で、診療の指揮を執る立場が医師になりやすいのが日本の現状であり、その歴史的な積み重ねの中で医師にも看護師にも「当然医師がリーダーであり、他の職種を指示によって動かすべきだ」という感覚が無意識にすり込まれているという指摘を、コミカルに表現したものである。
この「医師の呪い」は、医師以外の職種をひとまとめに「コメディカル」と呼ぶ習慣を生み出し、医師がいつも前面に出ることで医師以外の職種が積極性を発揮する意欲を失わせてしまう。呪いを解くためには、他の職種の役割を理解するのは簡単ではないという自覚と、他の職種への敬意、そして対等の連携実践が不可欠だが、医療界に深く根づいたこの意識を払拭するのは容易ではないとも感じる。
とは言え、診療やケアが複雑化し、医師の診断や治療だけではとても対応できないケースが増えていく日本の医療では、真の多職種連携を実施することは不可欠であるのもまた事実である。我々医師集団は、「医師の呪い」を自覚しながら日々の診療や組織運営にあたらなければいけないと切に思う。
草場鉄周(日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)[総合診療/家庭医療]
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