本誌「炉辺閑話」No.4941(2019年1月5日号)P.73で「人身事故と罰則の不思議」として表題に関する意見を述べたが、一向に是正の気配がない。警察の事故証明が「物損事故」であるにもかかわらず、人身事故として自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)で治療をしているものが2件に1件ある。その結果、警察庁公表の負傷者数は実態を大きく下回り約半数となっている。
この問題の論点は、法の下での不平等と、警察庁公表の「交通事故統計」の誤りである。これが改善されれば付随的問題である軽症者の過剰な通院や自賠責における詐欺等の軽減に通ずる可能性がある。
加藤氏1)が「隠れ人身事故」と指摘する、この問題の要因は下記であると思われる。①交通事故車両の運転者等は道路交通法第72条1項に基づき、負傷者の負傷の程度を警察へ報告する義務があることを理解していない、②顧客保護のために損保会社が被害者を無視して自賠責保険を利用するために「事故証明書入手不能理由書」を勝手に作成し、損害保険料率算出機構も精査なしに人身事故扱いとする、③警察は管轄内の人身事故件数の増加を好まず、人身事故の処理が物損事故より面倒などの理由から、医師診断書の受け取りに消極的、④被害者、加害者ともに自賠責診療が損害賠償事案であることに無知であり、損保会社の誘導に沿う事が多い、⑤被害者の忖度で行政処分等を回避するために、医師診断書を提出したがらない。
上記結果として人身事故の90%以上を占める軽傷人身事故被害者の一定数が慰謝料目当てに医療機関、柔道整復施術所に通う等の弊害が生じている。
解決策私案
①自賠責診療においては道路交通法第72条に基づき医師診断書を警察に提出することを厳守する、②「事故証明書入手不能理由書」について損害保険料率算出機構は損保会社任せにせず、法令を遵守し公平な自主的判断を行う、③医師診断書の治療期間2週間以内については、警察内の処理を簡素化するように法律を改正する。こうすれば、警察署内の作業は加重とならず、法の下の不平等と人身事故件数の誤りは解消すると思われる。
さらに、自賠責保険の監督官庁である金融庁、自賠責事業の実施責任機関である損害保険料率算出機構、国の交通事故の担当である警察庁交通局、交通事故診療の代表である日本医師会の4者が対策会議を行うほか、内閣府中央交通安全対策会議も活用すべきである。
【文献】
1)加藤久道:交通事故は本当に減っているのか?. 花伝社, 2020.
相原忠彦(愛媛県医師会常任理事)[隠れ人身事故]
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