私が医政局長時代に取り組んだ大きなテーマが、一つは医師偏在対策であり、もう一つが医師の働き方改革である。次期診療報酬改定の議論が終盤を迎えているが、今回の議論の柱の一つがこの働き方改革になっていることは、大変感慨深いものがある。
簡単に経緯を振り返っておきたい。平成29年(2017年)3月28日に決定された働き方改革実行計画においては、「医師については、時間外労働規制の対象とするが、医師法に基づく応召義務等の特殊性を踏まえた対応が必要である。具体的には、改正法の施行期日の5年後を目途に規制を適用することとし」「質の高い新たな医療と医療現場の新たな働き方の実現を目指し」「2年後を目途に規制の具体的な在り方、労働時間の短縮策等について検討し、結論を得る」こととされていた。検討の期限は2年間だが、既に各医療機関に労働基準監督署の立ち入り調査が相次ぎ、著名な病院を含め多くの病院が勧告を受ける事態となり、診療時間縮小など地域医療に影響も生じ始めていた。これが3年前の状況である。
考えなければいけない問題は多岐にわたった。まずは検討会を設置しなければならないが、罰則付きの上限規制はそれまでに取り組んできた勤務環境改善とは次元を異にする課題であり、医政局として議論の蓄積があるわけでもない。すでに定着している慣行や実態があり、影響は深く、大きく、視野に入れるべき時間軸は短期から中長期にわたる。
この際に心がけたのは、とにかく関係者間で共通認識を持つこと、そして実態のデータとエビデンスを集めてそれに基づいた議論を行うこと、などであり、医政局の職員にも検討会の先生方、関係団体にも大変な負担をお願いしながらの検討会となった。私は最初の1年で退官となったが、それからさらに1年の議論で病院類型ごとの上限や勤務間インターバル規制の導入という実効性の高い措置も合意され、働き方改革は大きく進むことになった。
働き方改革を進めれば、病院の人の手当て、そのための原資の確保は必ず課題になることは想定されていたが、まずは医療のため、医師のため、患者のために徹底的に議論が行われた。それこそが診療報酬上の措置に繋がる唯一の急峻な坂道だったようにも思うし、最終的には高い医療の質に繋がるという理解の醸成が、財源措置も含め関係者の理解に結びついたものと思う。現在の中医協関係者、厚生労働省の多くの職員、過去3年間の関係者など、多くの方に敬意を表したい。
武田俊彦(岩手医科大学医学部客員教授、元厚生労働省医政局長)[医師の働き方改革と診療報酬]
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