総合診療専門研修における外来の予約の取り方について、急性期編(No.5036)、亜急性期編(No.5047)に続き、慢性期・進行疾患のケースを「認知症」を例にお話しする。今回が最終回なので、受診間隔のコツだけでなく、長期的な方針決定の感覚をどう教えるかについても触れていきたい。
認知症という疾患は、よくテキストで紹介されている長期経過として、発症より2〜5年で金銭や服薬の管理が困難となり、5〜8年で入浴やトイレ動作に介助が必要となり、10年前後で歩行困難となり、嚥下障害から衰弱し死に至る。では、総合診療専攻医にこの「疾患軌道曲線」を教えたとして、何をもって良い外来長期的ケアができている、とするのであろうか。
一つには、「1年間の入院回数を数えてみては」と勧めている。転倒、誤嚥性肺炎、併存疾患の悪化など、認知症患者が急変し、入院に至るには一定のパターンがある。それぞれが多因子介入とはなるが、疾患軌道曲線を読み、先手を打って介入していくことで数回の入院を予防できるかもしれない。このような状態をambulatory care sensitive condition(ACSC)と呼ぶ。ACSCであると判断したら、外来の予約を短く提案して介入・評価・修正のサイクルを細かく回していこう。うまく緩急をつけた外来の結果、「今年も入院せずに過ごせましたね」と年末に確認しあえることは、患者・介護者・医師の三者にとり喜ばしいことと思う。
もう一つは、二人三脚で長く疾患ケアに関わってきた医師・患者関係ならではの、方針決定のあり方というものである。これは「本人が望む暮らしを長く続けられる」という地域包括ケアの考え方にも近似するものであり、個別性が高い。したがって、その人なりの生きがい、病い体験、社会的背景を毎回の外来で聴き取りながらケアゴールを立て、節目節目で再確認していく作業が必要となる。これには、同じ曜日、同じ医療機関に専攻医が戻ってきて、同じ患者・家族を診続けられる、ハーフデイバック外来を研修に組み込んではいかがだろうか。患者が通院困難となった時のために、同じ専攻医が在宅医療も続けて提供できるとさらに理想的である。正直言って研修の調整は大変なのだが、やる価値もある。
専攻医たちが、研修の3〜4年間だけでも、慢性疾患・進行疾患を抱える患者達の、個別性・多様性のあるケアのあり方を経時的に体感していくと、もっとずっとかかりつけ医を続けたくなるのではないだろうか。それがプライマリ・ケアにおける主治医感覚というものだと思う。
吉田 伸(飯塚病院総合診療科)[総合診療指導医奮闘記⑩]
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