株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

浜本隆二

登録日:
2023-04-19
最終更新日:
2023-05-01

「患者と社会に優しい医療AIの開発」

2016年1月にスイス・ダボスで開催された、第46回世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)では、主要テーマとして「第4次産業革命の理解」が取り上げられ、その定義をはじめ活発な議論がなされた。第4次産業革命とは、AI(Artificial Intelligence)・IoT(Internet of Things)・ビッグデータ等の利活用によって引き起こされる技術革新を意味し、いま世界中で社会構造や産業構造の大きな変革が現在進行形で進んでいる。

特にAIの研究開発は、世界列強国が鎬を削りながら行われている。わが国においても2016年1月22日に閣議決定された第5期科学技術基本計画の中で、我々がめざすべき理想の社会として「Society 5.0」が提案され、その実現に向けてAIを中核的技術として活用していくことが明文化された。その後様々な分野のAI研究開発が国策として行われたが、医療分野も重要視されており、活発に医療AIの研究開発が行われてきた。その結果、日本においても複数のAIを利活用した医療機器が薬事承認され、実臨床で使用されている。

技術革新という観点ではAIの可能性は非常に大きく、今後も医療AIの研究開発は加速度的に発展していくことが期待される。そこで注意が必要なのは、現在AIの技術的な進歩はとても早く、社会に与える影響も大きくなってきているという事実である。例えば米国のOpenAI社が昨年3月に発表したGPT-3.5では、司法試験の模擬問題を解かせても下位10%ほどのスコアしか取れなかったの対し、今年3月に発表されたGPT-4は上位10%のスコアで合格するレベルにまで進化している。

短期間において技術が進歩したことはとても素晴らしいが、一方忘れてはならないのは、科学技術は健康で幸福な人間社会を構築するために活用しなければならないという点である。いくら科学技術が進歩しても、その結果人間社会に悪影響を与えてしまったら本末転倒である。そのために、特に気を付けなければならない点が2つある。

1つ目は、医療AI研究開発は患者を第一に優先して行うべきで、間違っても利益を優先させてはならないと筆者は考えている。幸いなことに、これまで行った世論調査では、患者を含め国民の多くの方がAIの医療への導入に関してポジティブな印象を持っておられるため、その事実を真摯に受け止め、常に患者に寄り添ったAIの開発を心がける必要がある。

2つ目は、AIが医療従事者の脅威になったり仕事を奪うような存在にはならないように注意が必要である。そのためにもAIの強い点・弱い点、人間の強い点・弱い点をきちんと理解し、双方の強みを活かし、弱点を補いながら人間とAIが共存し、より質の高い医療を行う環境を整備していくことが肝要であると判断している。

浜本隆二(国立がん研究センター研究所医療AI研究開発分野長、一般社団法人日本メディカルAI学会代表理事)[第4次産業革命]Society 5.0]

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