2024年10月23日配信の読売新聞の記事によれば、内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)検査の2日後に急死した患者の医療事故調査・支援センターの調査報告書に「検査は適切とは言い難い」との『医学的評価』が記載されていたらしい。遺族は2022年12月に病院等を提訴したとのことである。
同記事によれば、患者死亡は2021年2月であり、2021年11月に「検査の実施は適切で、検査中に死亡に関わる有害事象は発生していない」との院内調査報告書がまとめられているらしい。一方、2022年4月に医療事故調査・支援センターの調査が開始され、2024年7月に「検査は適切とは言い難い」との調査報告書が出されたようである。医療事故調査・支援センターは、既に紛争が明らかになっているにもかかわらず調査を強行し、『医学的評価』を記載した報告書を提示したことになる。
この調査報告書には、少なくとも2つの問題点がある。①紛争が明らかになっているにもかかわらず調査を続け、報告書を提示したこと、②報告書に『医学的評価』を記載したことである。
医療事故調査・支援センターの調査は、院内調査の検証であり、必ずしも原因が明らかになるとは限らない。原因分析は客観的な事実から構造的な原因を分析するものであり、個人の責任追及を行うものではないことが明示されている。
したがって、①医療事故調査制度の施行に係る検討会でも議論されたことであるが、紛争化した場合は当然にそこで立ち止まるべきである。「紛争化した場合、調査は中止すべき」との意見に対し、医療安全推進室長が「調査を止めるということは、医療法上に規定がない」と回答しているが、これは、調査を中止するという規定が医療法上にないという説明であり、医療法上の立てつけを述べているにすぎない。実際の保険指導等の運用においては、厚生労働省は「中断」という手法を用いている1)。紛争化した時点で、調査は一時中断すべきであった。調査を強行した日本医療安全調査機構は、名誉棄損あるいは業務妨害の責任を負う可能性があろう。
また、②報告書に『医学的評価』を記載すべきではない。なぜなら『医学的評価』は、個人の責任追及に直結するからである。医療法人協会院内医療事故調査マニュアル2)は、個人の責任追及につながる『行った医療の評価』を記載しないように勧めている。
【文献】
1)小田原良治:未来の医師を救う医療事故調査制度とは何か. 幻冬舎, 2018, p285-7.
2)鹿児島県医療法人協会, 他:院内医療事故調査マニュアル. 幻冬舎, 2019, p35.
小田原良治(日本医療法人協会常務理事・医療安全部会長、医療法人尚愛会理事長)[医療事故調査制度][原因分析][責任追及 ]
過去記事の閲覧には有料会員登録(定期購読申し込み)が必要です。
Webコンテンツサービスについて
過去記事はログインした状態でないとご利用いただけません ➡ ログイン画面へ
有料会員として定期購読したい➡ 定期購読申し込み画面へ
本コンテンツ以外のWebコンテンツや電子書籍を知りたい ➡ コンテンツ一覧へ