高齢女性の敗血症だった。ERの研修医は尿と痰のグラム染色、胸部X線、腹部エコー、血液培養の採血を行った。初期輸液を開始したが、血圧が戻らない。尿路感染症に対して抗菌薬投与が始まった。救急医は昇圧剤の投与の開始を研修医に指示した。家族に説明したあとに、看護師と一緒に中心静脈穿刺の準備を始める。手術ガウンを身にまとい、超音波ガイド下に中心静脈穿刺が始まった。カテーテルが内頸静脈に留置されたあとで、大きな覆布が取り払われる。研修医は胸部X線撮影をして、正確な位置にカテーテルがあることを確認した。救急医の指示通りにノルアドレナリンが患者の体に入ったのは30分後だった。
中心静脈路確保は、高カロリー輸液と中心静脈圧測定、昇圧剤投与ルートに使われることが多い。近年、経管栄養の有用性が認識されると高カロリー輸液の適応が狭まった。過去には、中心静脈圧測定がICUや外科病棟でよく行われたが、超音波による下大静脈径計測で循環血液量の過不足の推測が簡便にできることでこれに置き換わった。中心静脈穿刺は気管挿管と胸腔ドレナージと並び研修医のあこがれる手技ではあるが、その修練機会は少なくなった。唯一昇圧剤投与ルートとしては残っていたはずであるが……。
国際的な敗血症ガイドラインSSCG2021によると、敗血症性ショックの成人に対しては、平均動脈圧を担保するために、中心静脈路確保を待たず、末梢静脈路から血管作動薬を投与することを提案する(弱い推奨)。末梢から血管作動薬を投与する場合は、短時間のみの投与とし、肘窩かその周辺の静脈に投与すること、とされている。血管作動薬とはノルアドレナリンのことであるが、2016年ガイドラインでは投与ルートは中心静脈路とされていたものが、2021年の改訂で末梢からも可能になった。ノルアドレナリンは血管外漏出や、それに伴う組織壊死などの心配があるので中心静脈路とされてきた。しかし、短時間かつできるだけ中枢側からの投与であれば比較的安全に投与できることがわかってきた。ショック患者を前にして迅速に中心静脈カテーテル挿入を行うことは容易ではない。
敗血症性ショックには、安全・清潔に中心静脈穿刺を準備しながら、末梢からノルアドレナリンを投与するのが望ましい。6時間以内なら静脈炎リスクは低いという研究がある。一次・二次病院から、敗血症性ショックを高次施設に転送する場合は、肘窩ルートに漏れがないことを確かめて、早くノルアドレナリン投与を開始するのがいい。
今 明秀(八戸市立市民病院院長)[敗血性ショック][血管作動薬]
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