先日、がん患者・家族を対象とした公開講座で講演と寸劇をする機会を頂いた。テーマは医療者と患者とのコミュニケーションであった。
以前、本連載で、患者から健康食品をはじめとした補完代替療法の相談を受けたときの対応パターンと失敗事例をとりあげた(No.5085)。今回、参加者(患者・家族)からリアルな声を聞けると思い、改めて紹介してみた。残念ながら、というべきか当然というべきか、「ダメ、絶対!」といったパターナリズムに基づく否定的な対応、「どうぞ、ご自由に」といった患者の自己責任論に基づく対応、「標準治療がベストです」といった情報欠如モデルに基づく対応、いずれも参加者から賛同を得られることはなかった。
さらに、「医師は病気(がん)のことばかり話して、患者の不安や悩み、体のつらさに気を配ることができていないような印象を受ける」「診療ガイドライン通りに治療することに固執していて、それ以外のことにはあまり興味がなさそう」など医師からすると耳の痛いコメントも頂いた。
がん患者が補完代替療法に期待していることは「精神的な希望」が最も多いことが報告されている1)。裏を返せば、患者から補完代替療法の相談を受けたときには、その背景に気持ちのつらさや生活のしづらさなど患者が何か困りごとを抱えていることを意味する。つまり、補完代替療法の相談は、患者に困りごとが生じているシグナルと言ってよいのかもしれない。
また、この報告では患者の約半数が精神的な支えとしての効果を実感していたとのことである。それを裏づけるかのように、患者のQOLに対する補完代替療法の効果を検証したランダム化比較試験の報告は、近年、右肩上がりに増加している。患者から補完代替療法の相談を受けたとき、これらのことを念頭に置いて対応をしてみてはいかがだろうか。
寸劇では、抗がん剤治療中の診療場面を想定した医師と患者とのコミュニケーションを題材に、筆者は医師役を演じさせて頂いた。丁寧な対応、面倒くさそうな対応、横柄な対応など様々なパターンの医師役をなんとかこなした。参加者との質疑応答の際、患者の立場でできること(医療者側からお願いしたいこと)として、自身の不安や悩み、治療における疑問点など、メモに書いて整理した上で診察にのぞむことを紹介した。しかし、メモを準備しても実際にはなかなか医師に話しかけづらいとの声もあがった。そのため参加者からは、診察の場面で医師が患者に「何か困っていることはないですか?」「何か聞きたいことはないですか?」など、一言声をかけてほしいとの意見を頂戴した。読者の皆さんは、そのような声がけはできているであろうか?
安全・安心で適切な医療がおこなわれるためには、医療者側・患者側のどちらか一方だけが努力すればよいというものではない。両者が共に努力することの重要性を改めて認識することができた貴重な機会であった。
【文献】
1)鈴木 梢, 他:Palliative Care Research. 2017;12(4):731-7.
大野 智(島根大学医学部附属病院臨床研究センター長)[統合医療・補完代替療法(60)]
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