前回の本稿(No.5245)では、妊婦のトキソプラズマ感染が赤ちゃんに障害を起こす恐れがあると述べました。そして生の、または火の通りが弱い肉を食べることが感染リスクとなることにも触れました。レアステーキ、中身が真っ赤なローストビーフ、ユッケ、本物生ハム、レバ刺し、馬刺し、鳥刺し等、み〜んなアウトです。前回の本稿でトキソプラズマの感染疫学には大きな地域差があると述べましたが、私が住む九州では南九州三県(熊本県、宮崎県、鹿児島県)の感染率は高いです。理由わかりますか? 「馬刺し・鳥刺し文化圏」なのです!
妊婦に要注意の食品由来病原体として、もう1つ〜リステリア菌があります。健康な人が感染してもあまり心配はありませんが、免疫不全者や高齢者に加え、妊婦が感染すると本人や生まれてくる赤ちゃんは重症化の恐れがあります。特に注意すべき食品は乳製品(未殺菌乳、ナチュラルチーズ)、生ハム、そしてスモークサーモン……やはり火が通っていない食品は妊婦には禁物です。
2011年、富山県の焼き肉チェーン店で起こった集団食中毒事件。ユッケを食べて腸管出血性大腸菌に感染し、溶血性尿毒症症候群や脳症を起こした5人が死亡しました。これを受けて国は生食用食肉の規格基準を見直し、牛肉は表面から1cm以上の内部を60℃で2分間加熱することとしました(注:肉の表面だけ汚染される大腸菌はこれでよいけど、筋肉中に潜むトキソプラズマは芯まで加熱する必要あり! 挽肉料理は特に要注意)。そして2012年7月1日から牛レバーは販売禁止となったけど、牛レバ刺し提供最終日の2012年6月30日、飲食店の前には長蛇の列!
そこまでして危険な生肉を食べたがる日本人が狂牛病〔牛海綿状脳症(BSE)〕で大騒ぎして、日本よりも2年早く「BSEリスクが管理されている国(準清浄国)」の認定を受けた米国からの牛肉の輸入に大勢が大反対しました。全頭検査みたいに徹底した検査を実施していたというのに。これに限らず、人は馴染みのあるリスク(交通事故、食中毒など)は過小評価し、自分の頭で理解できないリスク(遺伝子組換え農作物、レプリコンワクチン!)は過大評価しがちです。
日本の食文化の中で外国人がビックリすることの1つ〜それは卵かけご飯です。鳥類って、空を飛ぶ(鶏は飛ばないけど)ために体が極力簡略化していて、ヒトだと3つある排泄口(外尿道口、腟口、肛門)が1つ(総排泄口)だけ。つまり、卵はウンチやオシッコと同じ所から出てきます! だから本来ならサルモネラ菌に無茶苦茶汚染されるはずです。でも日本では生卵を食べることを前提として、徹底した衛生管理が行われ、サルモネラ食中毒のリスクはとても低くなっています。
だから間違っても、海外で卵かけご飯を食べようなんて思わないこと!
森内浩幸(長崎大学医学部小児科主任教授)[トキソプラズマ][腸管出血性大腸菌][食品由来感染][食中毒]
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