ここ数年、様々な医薬品が足りない状況が続いています。後発医薬品メーカーの不正問題による供給不足に加え、コロナ禍に抑えられていた各種感染症の噴出による需要増加が拍車を掛けています。
報道では「風邪薬が足りない」なんて見出しがつくことがあります。でも風邪薬って一体何でしょう? 要するに解熱鎮痛薬、抗ヒスタミン薬、鎮咳薬、去痰薬等の組み合わせ(総合感冒薬であればそれらのミックス)です。でもそれって、風邪(もしくはその他のself-limitingな急性感染症)に本当に要りますか?
熱は本来、身体の防御反応としてわざわざカロリーを使って出しているもので、実際水痘や手足口病などの感染症で解熱薬を使い続けると治りが遅くなり合併症を起こしやすくなることも報告されています。ただ、熱が睡眠や水分・栄養確保を邪魔する場合に、その一助として必要時に頓服(または坐薬挿入)することは有用です。
私の息子の場合、小さい頃は40℃を超す熱を何度も出しましたが、一度も解熱薬は使いませんでした。まあ息子はどんなに高熱でも食欲が落ちたことがないタフな奴でしたので、ちょっと例外かもしれませんが。乳幼児への抗ヒスタミン薬投与は世界的にはむしろ禁忌。鎮咳薬も厳密な評価に耐えうるものはほとんどなく、弊害もあります(咳だって生体防御反応)。ましてや抗菌薬は有害無益です。
私は解熱鎮痛薬の意義をきちんと説明した上で頓服処方するし、痰の絡んだ咳をしていたら去痰薬を処方することはありますが、それ以外のいわゆる風邪薬(もちろん抗菌薬も)は処方しません。処方ではありませんが、咳がひどい1歳以上のお子さんにはハチミツを勧めます(WHOも推奨です)。ただしハチミツを乳児に投与すると乳児ボツリヌス症の恐れがあるので禁忌! なおハチミツは日本薬局方にも含まれていますが、あくまで用途は調剤用または皮膚・粘膜の保護目的です。
ハチミツ以外の民間療法と言えば、「チキンスープ」です。欧米では子どもが風邪をひくと、おばあちゃんがチキンスープをつくって飲ませる家庭も多いです。温かいスープを飲むと鼻詰まりも解消するし、何より栄養価が高く消化しやすい優れ物です。最近の研究では抗炎症・解熱鎮痛効果があることも示されました。もちろん風邪に対する治療効果のエビデンスはありませんが、まったく眉唾な話でもありません。
ちなみに私の場合は「卵酒」です。睡眠誘導・栄養補給には文句なし? ただこれもエビデンスはなく、どちらかと言うと飲む口実です。ところで「ブドウ酒」も日本薬局方で許可された医薬品だって、ご存知ですか? 「酒は百薬の長!」とまでは言えませんが、食欲増進・強壮・興奮、下痢、不眠症などの効能・効果が謳われています。1回用量がわずか15mLまたは60mLというのがモヤモヤしますが……。私の場合、確実にoverdoseしそうです。
森内浩幸(長崎大学医学部小児科主任教授)[風邪薬][民間療法][酒]
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