株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

鈴木貞夫

登録日:
2021-01-15
最終更新日:
2024-05-20
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  • 「非感染性・慢性疾患の疫学者が語る『紅麹案件と新型コロナワクチン』」

    小林製薬株式会社の紅麹成分が含まれた健康食品「紅麹コレステヘルプ」をめぐって、摂取後に健康被害が発生した。商品の回収が進められているが、死亡者が出るなど全国で健康被害の訴えが相次いでいる。小林製薬から厚生労働省に報告された4月21日時点の情報では、医療機関を受診したのが延べ1459人、入院が247人、死者が5人である。この件について、小林製薬は記者会見で、「本来はもっと早く報告すべきだったが、何が原因かわからず、できるだけ広く可能性を調べた」と説明した1)。健康被害の最小化のために製品を回収するなどの企業判断は、迅速性が重要で、原因究明を待ってはいられない。今回のような事態を2カ月近く情報開示しなかったことを批判的にとらえる論調は多い。

    原因物質の究明には、さらに時間がかかることが予想されるが、特定の工場で製造されたロットから発症していること、製品から青カビ由来の「プベルル酸」をはじめ、通常は入っていない物質が複数確認されたことから、本来の「紅麹」に原因があるのではなく、青カビの混入が強く疑われる。また、健康被害のほとんどで、薬剤に起因することもある腎病変「ファンコニー症候群」がみられたことも、この仮説を支持している2)

    この事例は、サプリメントの製造工程に異物混入があり、その異物に由来する健康被害が起きていると考えて、大きな矛盾があるとは思えないが、新型コロナワクチン後遺症患者が、厚労省に徹底調査を要請するという新展開を見せている3)。サプリメント問題では厚労省が実態調査や被害最小化に向けて、ある程度迅速に対応しているのに対し、ワクチンの健康被害に関しては、早い段階から接種後死亡例の報告などが次々に上がっていたにもかかわらず、被害拡大防止策がなされてこなかったことを問題視したというものである。

    「命の差別をしないで」という主張に込められた患者の気持ちはともかく、国民のほとんどが接種したワクチンと、紅麹サプリメントとでは、乱暴に推測すれば、母数が2、3桁違う話である。また、アウトカムの健康被害も非常に特異的で、ワクチン接種後症状とは対照的である。このように、要因の頻度が低く、特異的なアウトカムが連続して起きれば、関与を疑うのは分析疫学の王道である。紅麹コレステヘルプ摂取での健康被害が3例連続したので、小林製薬に連絡を取ったという日本大学板橋病院の阿部雅紀主任教授の姿勢はこの原則そのままのものである。

    一方で、「紅麹サプリで死亡者5名! で恐怖を感じる人たちは、コロナワクチン副作用による死亡が2000人超で、接種から日本人の死亡が例年より数十万人も増加していることを知ったら震え上がって眠れなくなるのではないでしょうか」など、医師がエビデンスに基かない言説を、SNSで次々と発言すること5)は、正しい因果関係の理解を阻害し、市民の科学リテラシーに悪影響を及ぼすと考える。

    【文献】

    1)NHK NEWS WEB公式サイト:小林製薬「紅麹」問題公表から1か月 物質特定や原因解明急ぐ.(2024年4月22日)
    https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240422/k10014429981000.html

    2)NHK NEWS WEB公式サイト:小林製薬 紅麹問題『プベルル酸」健康被害の製品ロットで確認.(2024年3月29日)
    https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240329/k10014405791000.html

    3)Yahoo!ニュース公式サイト:楊井人文, サプリ健康被害と対応に大きな違い「命の差別しないで」ワクチン後遺症患者が厚労省に徹底調査を要請.(2024年4月10日)
    https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/5330c45aa819da67391c2158ea762642b75b3e5f

    4)Yahoo!ニュース公式サイト:“紅麹サプリ”疑った医師、経緯を語る 患者3人を診察…先月1日、小林製薬に問い合わせ.(2024年3月30日)
    https://news.yahoo.co.jp/articles/bf9dc58ef21e3b0c41c9056e7a3911869f060c4e

    5)森田洋之医師のXでの発言.(2024年4月8日)
    https://twitter.com/MNHR_Labo/status/1777145313775735026

    鈴木貞夫(名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)[健康被害][分析疫学]

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