株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

近藤博史

登録日:
2024-02-21
最終更新日:
2024-05-16
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  • 「『丸投げ契約はコンプライアンスの低下をまねく』のその後」

    昨年10月に私の所属する病院で発覚した事件について、本欄No.5215で紹介した。PACS(検査画像を検査機器から収集し、検索して表示するシステム)のバックアップシステムをベンダーと契約していたところ、最初にソフトウェアを導入した5年前のミスで、バックアップがずっとされていなかったことが判明した。しかもそれを発見したベンダーの社員は当院に報告せず、オンライン保守を使ってバックアップファイルを作ろうと試み、失敗して病院職員に見つかった、というものである。

    その事件を受けて、ベンダーに同様の問題が他の病院にもあるのではないかと全国調査を求めたところ、担当重役から3月15日に報告があった。それによると、①中小病院用の対応システム(エラーメッセージを見るだけの仕組み)で2564件中64件(全体の2.5%)、②大病院のシステム(「大病院はSEが対応するので問題がない」と言っていた)で3364件中190件(同5.6%)─で問題が見つかったとのことである。①については、「バックアップソフトに問題をより生じさせない改修を行った」とのことであった。②については「Yaghee(診療文書の作成・管理ワークフローを効率化し、医師やスタッフの働き方改革を支援するプラットフォーム)など標準化されていない部分であり、複雑だったようである。今後このようなことのないようにシステムを改修した」との説明であった。

    私から「今回のもう1つの問題、隠蔽工作を防止するための対策はどうされるのか」とお聞きしたところ、返答に困られていたので、「報告書に①起動ソフトウェアの確認、②テープ残高の記録─の2点をさせれば隠蔽できなくなるでしょう」と提案した。なお、システム導入時1年間の保守は無料だったので、4年間の保守料は返還して頂いた。お帰りを見送った後、問題を発見した担当者と私はなんとなく晴れやかな気分にはなれなかった(後に阪神間の保守センター長は異動されたと聞いた)。

    この事件の顚末を皆さんはどう思われるだろうか。このベンダーは、この分野における日本最大手の企業で、AI開発などで素晴らしい実績を持っている。なお、1993年に大阪大学新病院で日本初の高精細FCRや、FCRを使ったX線撮影の自動化を共同開発したことから、歴代の社長とは懇意にさせて頂いていたので、今回重役に連絡できた。

    しかし今回の事件で、日本の大企業の社会的責任、コンプライアンスの低下に危惧を感じた。今後の当院の方針として、①②に加えて、③必要時以外はオンラインを切断するなど保守回線の監視の徹底、④別会社への移行─を検討する予定である。

    ただ、④の実施は難しい病院が多いと思う。講演などで私が(既存電子カルテベンダー以外の企業を使って)仮想化などの新技術導入の話をすると、「既存ベンダーに聞いたが、『高額の経費がかかるため無理』と言われた」との声を聞く。情報源まで既存ベンダーしかなく、丸投げ会社から抜け出せない利用者がほとんどだ。これは、インターネット社会で問題になっている「フィルターバブル」「エコーチェンバー」の状況に類似する大きな問題だと思う。

    近藤博史(日本遠隔医療学会会長、協立記念病院院長)[隠蔽の防止][フィルターバブル]

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